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2016.05.21

菊地秀行『ウエスタン忍風帳』 二つの「西部」を行く男たち

 自作のネタ集めのために西部辺境を訪れた流行作家ネッド・バントライン。そこで彼は超人的な技を操る忍者・シノビと出会い、取材を申し込む。掟を破り仲間を殺めて逃げた抜け忍たちを追って海を越えてきたというシノビと共に旅するバントラインの前に、次々と恐るべき者たちが現れる……

 菊地秀行の西部劇愛は、ファンであればとっくにご承知かと思いますが、ついにその手になる西部劇小説が登場しました。本作の主人公の一人は、遙か日本から海を越えてきた忍者・シノビ。大西部を舞台に、忍者が大暴れを繰り広げる、いかにも作者らしいユニークな物語であります。

 と、このシノビという名前と、大西部を行く忍者という設定には見覚えがあるという方もいるかと思います。実はシノビというキャラクターは、作者が同じ創土社から発表した『邪神決闘伝』の登場人物であります。
 しかし本作は続編というわけではなく、あくまでも独立した物語。シノビのキャラクターを気に入った作者による、新たな物語なのです。

 そしてシノビとともに本作の主人公を務めるのはネッド・バントライン。19世紀の西部開拓時代のアメリカを舞台に活躍したダイムノベル(大衆小説)作家であり、作中で自らが語るように、バッファロー・ビルら西部の英雄の売り出しに一役買った人物であります。
(しかし西部劇ファン的には、この世にわずか5丁しかない、かのワイアット・アープも手にしたという(あくまでも「伝説」のようですが)バントライン・スペシャルにその名を残すと言った方がいいかもしれません)

 実は本作の語り手となるのは、このバントラインのほう。あくまでも常人である彼の目から、大西部の風物と、何よりもシノビたち東洋の驚異が、ケレン味たっぷりに描かれることになります。

 そもそも、シノビが海を越えてはるばる日本からやって来たのは、文明開化の世となり、これまで密かに磨いてきた超絶の技を捨てることに反発し、外道に身を落としたかつての同門五人を制裁するため。
 バントラインに出会う直前に一人倒したものの、まだ残るは四人。かくて、シノビとバントラインの珍道中、いや死闘旅が繰り広げられるのであります。

 そして本作で二人が旅する西部は、パラレルワールドでも邪神が跋扈するわけでもない、言ってみれば「普通」の西部。しかしも、この作者の「普通」が、我々のいう普通とは大いに異なることは言うまでもありません。
 シノビたち日本から来た忍者たちや、自らの分身に悩まされる美女、奇怪な術を操る土俗の妖術師……そんな、普通の西部劇では滅多にお目にかかれない連中が、本作の西部にはウヨウヨとしているのであります。
(そしてもちろん、ドク・ホリディやビリー・ザ・キッドたちも!)

 これはもう作者の独壇場、バントラインの軽妙な語り(語りの内容に対する謎のツッコミに「誰だ、お前?」と答えるのが可笑しい)もいい。それに加えて、彼の手になる(という設定の)大仰極まりないウソ西部小説が時折挿入されるのもまた楽しいのであります。

 この辺り、シノビが寡黙かつ神出鬼没なこともあり、バントラインの存在感が本作では非常に大きいのですが――考えてみればバントラインという男は、小説という形で「現実」の西部と、「物語」の西部の間に立って生きてきた男。
 そんな彼が語り手になるというのは、そのまま「西部劇」というジャンルにおけるこの二つの西部の構造を凝縮したように感じられて(さらに言えば、上述のとおり「物語」の「物語」などというややこしい要素もあるわけで)何とも興味深いところです。


 そんなわけで、物語の内容だけでなく、現実と虚構の在り方についても考えさせられてしまう本作なのですが……いただけないところが一つというか何というか。
 正直に申しあげれば、小説としての瑕疵が色々と目につくのであります。

 誤記誤植はまあいいとして(本当は良くない)、章題と内容がほとんど合わないのはいかがなものかと思いますし、何よりも倒した敵の人数と残りの敵の人数が合わないのは、これはこの手の物語としてかなり痛いのではないかと思います。
(直前に倒した相手が生きているということになっていたのには、相当に混乱しました)

 現実を描くのと同様、いやそれ以上に虚構を描くにも正しさ、確からしさというものは必要なわけで……この辺りは本当に残念としか言いようがないところであります。


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ウエスタン忍風帳


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