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2016.05.25

瀬川貴次『暗夜鬼譚 春宵白梅花』の解説を担当しました

 久々にお仕事の報告です。集英社文庫から20日に発売されました瀬川貴次『暗夜鬼譚 春宵白梅花』の解説を担当させていただきました。『ばけもの好む中将』『鬼舞』など、平安ものを中心に活躍してきた名手の、その原典とも言うべきシリーズ第一弾の復刊であります。

 『暗夜鬼譚』シリーズの第一弾である本作が集英社スーパーファンタジー文庫から刊行されたのは、実に今から22年前の1994年。これはいずれお話しするかもしれませんが、この時期は前年から始まった陰陽師ものの最初のブームの真っ只中でありました(ちなみに二回目はその10年ほど後の2001年から)。

 すなわち、現在では平安もののサブジャンルとして成立している陰陽師ものの中でも、かなり初期に発表された作品であり、そして『暗夜鬼譚』は、これ以降全23巻に渡って展開された、大ヒットシリーズなのです。
 そして先に述べたように『ばけもの好む中将』の……そして色々な意味でより直接的には『鬼舞』の、原点とも言うべきシリーズでもあるのです。


 さて、そんな本作の主人公は、都に出てきたての少年貴族・夏樹。彼はある春の晩、宮中でこの世の者とも思えぬ美少年、そして世にも恐ろしい形相の馬頭の鬼と出くわしてしまいます。その晩は何とか収まったものの、翌朝には喉を食いちぎられた女房の死体が発見され、大騒動に発展してしまうのでありました。

 さらに宿直していた夏樹の前にも新たな怪異が現れるに至り、彼はこの騒動を収めることができるかもしれないただ一人の人物を頼ることを決意します。
 そう、それこそはあの晩の美少年、賀茂の権博士の下で修行中の陰陽生・一条だったのです……


 というわけで夏樹と一条、対照的な二人の少年が怪異に挑む本作については、是非直にお手に取っていただきたいのですが、解説を書き出すまでには、なかなか緊張いたしました。
 先に述べたとおり、本作はかつてのの大ヒットシリーズ。今に至るまで多くのファンを抱えている……というより、僕自身がそのファンなわけで、公私にわたり(?)大いにプレッシャーを感じた次第です。

 さらに言えば本作は、冒頭に述べたとおり20年以上前の作品。僕が読んだのはそれよりも後ですが、しかし当時楽しんだ作品を今読んでみて、果たしていまも楽しめるのか。
 そして今で言うライトノベルレーベルから刊行された作品を、一般レーベルの読者が読んだ時にどのように感じるのか?

 そういった点も初めは気にかかっていたのですが……いや、書き始めてみたらかつての自分といまの自分、両方の自分を踏まえて実に楽しく書くことができました。
 おそらくは今回の集英社文庫版の読者の中には、僕のように旧版にも親しんできた方も多いと思うのですが、そうした方にもこの解説は共感していただけるのではないかな……と、(自分でいうのも何ですが)万事控えめな僕としても思っているところです。


 さて、そんな自分語りはさておき、本書には、書き下ろしの掌編『暗く豊かな夜に』が収録されています。
 このシリーズ、いやこの作者の作品全体を表したかのような見事なタイトルですが、ここで描かれるのは、一条が子供時代の物語。

 彼がある晩、賀茂忠行の牛車の供をした際に百鬼夜行と行き会って……という内容を聞けば、なるほどあの逸話が題材か、とわかる方にはピンとくることでしょう。
 一条の「正体」については、特にこの『春宵白梅花』の時点ではほとんど明らかにされていないのですが、こちらを読めば察することができるというのは、何とも心憎い趣向です。

 そしてもう一つ、これは小声で書きますが、この作者で百鬼夜行と言えば、もう一つ別の作品を思い浮かべる方もいるかと思います。
 そこであちらの作品と読み比べてみると、非常に興味深い符合がありまして……大いにニンマリできるのではないかな、と思います。
(微妙に差異はあるのですが、それは暗い夜ですから誤差の範囲内ということで)


 何はともあれ、解説云々は抜きにして、時を超えて名作が復活したことを、心から喜びたいと思います。
 そしてまた、シリーズの続巻が今後も刊行されることを、心から期待しているところでもあります。


『暗夜鬼譚 春宵白梅花』(瀬川貴次 集英社文庫) Amazon
暗夜鬼譚 春宵白梅花 (集英社文庫 せ 5-7)

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コメント

あのシリーズが復活ですか! 全巻持っていますが・・・、買うしかないな。イラストは無し? 

投稿: almanos | 2016.05.29 19:30

almanos様:
イラストは表紙のみですが、記事に書いたとおり書き下ろし短編がありますのでぜひ!

投稿: 三田主水 | 2016.05.30 01:15

買いました。懐かしくも、全然古びてないですな。時代物では無いですが「白の剣士ルーシファ」なんかも今なら案外って気もしますね。「ブラックガーディアンズ」とその続編の「聖霊狩り」とか。
 作家違いですが「ハルマゲドンバスターズ」も再刊してくれんだろうか? なんて思いますね。
 まあ、暗夜奇譚がどんどん続いて再刊って流れになってくれれば良いですね。特にあのコンビが砂吐きそうになるあの閑話とかを是非再刊して欲しい。

投稿: almanos | 2016.05.31 21:25

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