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2016.05.02

犬飼六岐『黄金の犬 真田十勇士』 十勇士、天下の権を笑い飛ばす

 戦国を流浪しては金のために大暴れする猿飛佐助ら十人の凄腕たち。そんな彼らが次に向かったのは、大坂城の真田幸村の屋敷だった。大坂冬の陣の後、敗色濃厚な豊臣家を救うため、徳川との再戦の時期を遅らせてほしいという幸村の依頼に、佐助たちが示した条件は、高額の報酬ともう一つ……

 最近個人的にすっかりしないことが多く、スッキリさせてくれる本を読みたいなあ……と思っていたところに出会ったのが本作です。
 本作は、いま一番の売れ筋とも言うべき真田幸村を題材とした作品ですが、しかしその切り口はここでしかお目にかかれないユニークなもの。そして何よりも、実に痛快、まさにスッキリさせてくれる快作なのであります。

 時は1615年、大坂冬の陣も終わり、天下の帰趨がほぼ定まった頃。本作の主人公は一人一人が持つ凄まじい能力で自由気ままに諸国をさすらう十人のプロフェッショナル……

 凄腕の忍びでまとめ役の猿飛佐助
 佐助に並ぶ達人で美形の霧隠才蔵
 短気で矮躯を馬鹿にした相手は許さない三好清海
 兄の命じるまま、兄と正反対の巨躯を駆る三好伊佐
 伊達男で女には甘い海野六郎
 生活能力は皆無だが火薬使いの天才・望月六郎
 暇さえあれば鉄砲の整備ばかりの筧十蔵
 水中戦なら最強の河童男・根津甚八
 才蔵を慕う男装の美女、穴山小助
 すぐに人を怒らせる自称軍師の由利鎌之助

 そう、後世に真田十勇士と呼ばれる面々であります。しかし本作の十勇士は、「普通の」十勇士とは大違い。あくまでも雇われたから幸村に味方するというドライで不敵な連中なのです。

 本作は、そんな十勇士が、次なる戦いへの時間稼ぎのために幸村に雇われ、徳川方に戦いを挑むことになるのですが……しかし彼らの原動力となるのは、金だけではありません。もちろん名誉や忠義などでもありません。
 彼らが雇われるに当たってつけた条件、それは「秀吉の黄金の茶室で呑み食いしてみたい」。そんな酔狂な理由から、徳川を相手に命を賭ける……そんな反骨ぶりを発揮する連中の活躍が、痛快でないはずがありません。

 かくて四方に分かれて彼らが挑むのは、徳川の大坂攻めを遅らせるためのミッション。家康の「影武者」を暗殺し、徳川方の金山を潰し――時間稼ぎ、嫌がらせというにはいささか過激な内容ですが、そんな気軽さでもって、彼らは死地に赴くのです。


 真田幸村に忠誠を誓い、その最期まで運命を共にしたという十人の勇士・真田十勇士。しかし本作の十人は、上に述べたとおり、忠義など薬にしたくともない連中であります(そもそも、真田家の家臣ですらありません)。
 彼らが信じるのは、ただ己の技量のみ……もちろん、仲間のこともそれなりに信じてはいますが、一種ドライな関係に留まります。

 それは一見、ひどく味気なく、寂しくも見えるかもしれません。終盤、佐助が幸村に告げた家康必殺の策のように、非情とすら言えるでしょう。
 しかし、その幸村が、豊臣家に忠誠を捧げつつも、それに翻弄された末に滅びを目前としたことを思えば、己の腕を頼みに生きる十勇士の生き様は――特に現代のような、様々な規範が崩れつつある時代においては――何とも心強く、頼もしく、そして豊かな人間性を感じるのは私だけではありますまい。

 世俗を、天下の権力を笑い飛ばす……彼らが条件に出した、天下人が作った黄金の茶室での飲み食いは、その反骨と心意気の表れにほかならないのです。


 そんな痛快な本作ですが、一つ欠点があります。それは、あまりに早く結末が訪れてしまうことであります。
 無茶を承知でいえば、この倍はあってもよかったのではないか、あって欲しかった……十人の勇士の痛快な冒険はまだまだこのくらいでは物足りない、続編でも前日譚でもいい、もっともっと読みたいと、そう感じてしまうのです。


 ちなみに作者が十勇士を扱った作品には、大坂の陣の後、無敵の猿飛佐助を討つために奔走する「普通の」忍びたちの姿を描く『佐助を討て』があります。
 本作とは異なる世界観の作品ではありますが、歴史の陰で確かに息づいていた個人たちの姿を描くことでは共通する点もある作品ですので、ぜひこちらもご一読を。


『黄金の犬 真田十勇士』(犬飼六岐 角川春樹事務所) Amazon
黄金の犬 真田十勇士


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