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2016.05.13

鳴海丈『鬼砲 あやかし小町 大江戸怪異事件帳』 さらにバラエティに富む怪異捕物帳

 正義感の強い熱血町同心と、妖怪に護られた美少女のコンビが江戸を騒がす怪事件に挑む『あやかし小町 大江戸怪異事件帳』シリーズの第二弾であります。今回も捕物帳という基本ラインを踏まえつつも、不可能犯罪あり、江戸壊滅の陰謀あり、大妖怪との対決ありと、盛り沢山の内容であります。

 北町奉行所の定町廻り同心として今日も江戸をゆく好漢・和泉京之介。江戸で続発した奇怪な事件を解決したことで知られるようになった彼ですが、しかし事件解決のもう一人の立役者こそが、「あやかし小町」こと茶汲み娘のお光であります。
 絵師になると江戸に出て消息を絶った兄を探すため、東金から江戸に出てきたお光。その途中、「おえんちゃん」こと妖怪「煙羅」に取り憑かれた彼女は、その力を借りて兄を探しつつ人助けをしているうちに、京之介と出会ったのです。

 以来、互いに憎からず想い合うようになった(けれども互いに奥手なので言い出せない)二人は、人知を超えた様々な事件に挑むことに……ということで、この第二弾においても、その基本的設定は変わることなく、捕物帳+妖怪ものというスタイルで、物語は展開していくことになります。

 その第一話「かみへび」で描かれるのは、書物屋の主の首吊り自殺から始まる事件。単なる自殺であれば事件になるはずもありませんが、しかし実はそれが何者かに首を絞められていたといえば話は別であります。
 こういう場合の常として、主には色っぽすぎる妾がいたことから、彼女が疑われるのですが、しかし主には様々な秘密が……と、物語が展開していくにつれ、いかにも作者らしい変態外道が登場するのが、印象に残るエピソードであります。

 そして表題作の第二話「鬼砲」は、お光の働く茶店から消えた老武士と、京之介が未然に防いだ商家への押し込みが、意外な形で交錯し、どんどんとスケールアップしていくという異色の物語。
 押し込みが狙っていた星石とは何か、かつて住民が皆殺しにされた廃村から遺骨が消えた謎とは、殺された老武士が遺したものとは、そして「鬼砲」とは一体……数々の謎が入り乱れた末に、江戸壊滅を目論む大陰謀に繋がっていくというド派手な物語であります。

 さらにクライマックスの大活劇には、前作にも登場した、そして何よりも作者が得意中の得意とする男装の美少女戦士、娘陰陽師・長谷部透流も参戦。
 比較的シンプルな(?)捕物帳であった第一話とはうって変わった一大伝奇活劇が実に楽しいのです。

 そして第三話「狐の嫁入り」は、稲荷への信仰厚い大店に嫁入りした美女・お鶴が、新婚初夜に狐憑きとなった末に姿を消し、さらに翌日には新郎が狐を思わせる獣に噛み殺された姿で発見され……という、再びオーソドックスな捕物帳スタイルのエピソードです。

 京之介の丹念な捜査の末、事件の裏のカラクリが解き明かされ、一件落着も間近というところでとんでもない秘密が明らかになるのには驚かされますが、さらにお光自身の物語にも繋がっていくという盛りだくさん過ぎる本作。
 それだけ振り回しておいて、ラストはきっちりと善男善女が救われにっこりと笑顔で終わるというのが気持ち良く、この第二弾の締めくくりとして、そしてシリーズ全体の句読点として実に楽しい作品であります。


 以上三編、前作以上にバラエティに富んだ内容は、作者の作品の持つ振れ幅の大きさをそのまま表すものとして、楽しむことができます。
 それだけでなく、妖怪時代小説にはままありがちな、妖怪の特殊能力を使って万事解決……ということにはならず、あくまでも基本は人間の知恵、そして善意が事件を解決するというスタンスを貫いているのは好感が持てます。

 しかしそれは一方で、この事件に妖怪を絡ませなくてもよかったのでは……というある種致命的な疑問に繋がりかねないところではあります。
 特にお光より明らかに透流の方が妖怪時代小説のヒロイン的な点(そして透流が便利に使われている点も含めて)は、引っかかるところで、この辺りは、厳しいことを言ってしまえば粗さ、軽さと言うこともできるでしょう。

 個人的には、こうした点も含めて、肩の凝らない娯楽作品として本作を好ましいと感じているところですが、ここはやはり評価が大きく分かれるところでしょうか。


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