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2016.05.18

六堂葉月『江戸ねこ捜査網』 猫の依頼を受け、猫のために戦う男!

 レーベル名的に猫を題材とした時代小説のような印象もある招き猫文庫ですが、実はそれほど多くないというのが実際のところ。しかし本作は正真正銘の猫伝奇時代小説……かの化け猫騒動で知られる鍋島藩の末裔が、猫たちの依頼を受け、猫たちを助けるために悪と戦う活劇であります。

 鍋島の化け猫騒動といえば、佐賀藩二代藩主・鍋島光茂が、家臣の龍造寺又七郎をささいなことから斬殺。その母も後を追って自害、その血を舐めた飼い猫が、主たちの恨みを晴らさんと夜な夜な光茂を悩ますも、最終的には化け猫は光茂の忠臣・小森半佐衛門に討たれ……という伝承であります。

 この伝承は、江戸時代から歌舞伎・読本・講談と様々なメディアで人口に膾炙し、現代でも数々の怪談映画の題材となり、(さすがに今では言われなくなりましたが)化け猫といえば鍋島、という状態だったのです。

 さて、本作はまさにこの伝承を踏まえての物語。この化け猫騒動から時を経て、鍋島光茂の子孫に当たる鍋島家の美丈夫・通茂が主人公となります。
 この通茂、まだ25歳にも関わらず表の世界の地位を擲ち、子供の頃からの忠臣にして幼なじみである小森新右衛門(同じく化け猫を退治した半佐衛門の子孫に当たります)とともに、江戸で毎日気ままに暮らしています。

 ある事件がきっかけで純白の総白髪となり、人嫌いの変わり者として周囲から知られるようになった通茂。そんな彼が無条件に心を開き、心を通わすのは猫たち……

 いえ、心を通わすというのは喩えではありません。実は通茂は、猫と言葉を、意志を通わす能力持ち。
 人間と違い、裏表のない猫たちを愛する通茂は、その文武の冴えを猫たちを救うために擲ち、新右衛門とともに日夜奔走するのであります。


 という基本設定の本作は、全三話で構成される連作短編集。このスタイルは文庫書き下ろし時代小説では定番中の定番ですが、設定が極め付きにユニークであるため、当然展開する物語もユニークなものばかりとなります。

 子猫を連れ去った(これは不可抗力なのですが……)盗賊退治から始まり、同じ長屋に住む人間にかけられた殺人の濡れ衣晴らし、飼い主の子供の拐かしの探索と、どの事件も猫から持ち込まれた事件ばかり。
 その身分や美貌、文武の冴え目当てにやってくる人間に対しては非常に冷たいのに対し、猫にはベタ甘の通茂が猫を助けるために全身全霊を賭ける――そして結果的に人間も助けてしまう――姿が実に微笑ましいのであります。


 しかし本作は、甘く楽しいばかりの物語ではありません。実は通茂が白髪となり、若隠居となったのは、かつてお家騒動に巻き込まれて毒を盛られたゆえ。
 それまではある理由から辛うじて命は取り留めたものの髪は白く変わり、その異貌を疎まれ、これまで藩主の子として遇してきた周囲も手のひらを返すような態度を見せるに至り、彼は人の世界に背を向けたのです。

 彼が新右衛門ら一部を除き、人間に冷淡な態度を見せ、猫を偏愛するのも、この過去があるゆえ。彼の抱えた深く重い屈託が、本作の底には確かに流れており、それが物語の隠し味として作用しているのです。


 とはいえ――いささか展開を明かすことになってしまい恐縮ですが――彼が自ら背を向けた人間の世界、社会的栄達に心揺れる姿を描く最終話終盤の展開は、彼らしいような、らしくないような、微妙にすっきりしないものを感じさせます。
 もちろんそれも彼の人間味、キャラの深みではあるとは思うのですが、それまでの描写に比べると、突然変貌した印象が個人的には残りました。

 そのほかにも、文章運びの堅さなど、すっきりしない部分もあり、題材と設定のユニークさ、面白さが印象的なだけに、この辺りはもったいなかった、という気持ちが残ったのは、正直なところではあります。


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