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2016.06.05

出海まこと『天正真田戦記 名胡桃事変』(その1) 帰ってきた真田「幸村」!

 第一次上田合戦の直後、沼田城に迫る北条軍を、矢沢頼綱を助けて蹴散らした「真田幸村」。その後、秀吉の仲介で真田と北条は停戦したものの、北条家の猪俣邦憲は真田のもとに残された名胡桃城奪還に執念を燃やしていた。そしてついに名胡桃城に侵攻した北条軍に対し、真田家は、幸村は……

 出海まことによる「真田幸村」の物語が帰ってきました。およそ五年前に同じレーベルから刊行された『ロクモンセンキ』上巻に続く作品、それも質・量ともにパワーアップした作品として……
 そしてその舞台は、名胡桃事変。戦国史に大きな意味を持ちつつも、知名度は高いとはいえないこの事件を、本作はケレン味たっぷりに描き出すのです。

 真田昌幸と、当代の「猿飛」の名を継ぐくノ一(!)の間に生まれた真田信繁。その出自故、兄とは異なる育てられ方をした信繁は、武将としての才と忍としての才、その双方を併せ持つ少年として成長することになります。
 そして彼が上杉家に人質に出ている間に上田に襲来した徳川軍。景勝の許しを得て密かに帰った信繁は、「幸村」を名乗り、「霧隠」の名を継ぐ幼馴染の美少女・彩華ら異能の士たちとともに、徳川軍を奇策を以って撃退するのでありました……

 という『ロクモンセンキ』の物語の直後から始まる本作は、徳川軍と呼応して攻め込んできた北条軍と真田軍の攻防戦の最前線となった沼田城での戦いを、その前半で描くこととなります。

 真田軍に対して、圧倒的な多数で迫る北条軍を迎え撃つのは、昌幸の叔父であり、猛将として恐れられる(文字通り)炎の槍使い・矢沢頼綱。本作の前半は、この頼綱の超人的活躍と、幸村と仲間たちの奮闘が、一方の極となります。
 多勢に対して寡勢で抗し、翻弄するというのは、これは戦国合戦エンターテイメントの王道であり、そして真田家こそそのイメージを体現する存在。その真田家の面々が思う存分暴れまわるのは、何とも痛快としか言いようがありません。

 本作の幸村と仲間たちのユニークなキャラクターについては、上で述べた『ロクモンセンキ』そのままの楽しさですが(本作ではさらに根津甚八らの新顔も、負けずに個性的なキャラで登場)、ほとんど完全にバトルマニアの頼綱の存在が何とも強烈。
 彼らに振り回される北条方がむしろ可哀想に感じられるほどなのですが……


 そして新たな天下人というべき秀吉の登場により、矛を収めることとなった真田家と北条家。そこで生まれた一時の平和の中、幸村は、今度は大坂の秀吉のもとに人質として出されることとなります。
(ちなみに本作、作中で「信繁」の名は「知らん」「パッとしない」と散々に言われるので、以後は基本的に幸村で統一します)

 そこで石田三成、大谷吉継ら、将来の豊臣家を担う俊英たちと出会い、触れ合う中で、己に何ができるか、己にしかできないこととは何かを悩み始める幸村。
 しかし彼がその答えを出す前に、驚くべき知らせが故郷からもたらされます。それは、真田家に残された名胡桃城が北条方に奪われたという報。そして愛する彩華が、そこに潜入したまま消息を絶ったと知った幸村は……

 と、新たな危機を前に青春まっただ中の幸村ですが、実は本作には、もう一つの極が、もう一人の主人公と言うべき人物が存在します。その名は――
 長くなるので次回に続きます。


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