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2016.06.27

永尾まる『猫絵十兵衛 御伽草紙』第16巻 不思議系の物語と人情の機微と

 猫絵師十兵衛と元猫仙人のニタ、凸凹コンビのちょっと(?)不思議な人情話である本作も、前巻で目出度く100話を突破して、まさに脂が乗り切っているという印象。この巻も何か特別な趣向があるというわけでもないのですが、しかし毎回毎回確実に面白い、そんな作品です。

 この巻に収録されているのは、101話から始まる以下の全7話であります。

 変わり朝顔栽培に夢中になっていた主に先立たれた猫が、遺された朝顔の種の栽培に奔走する「牽牛子猫」
 この巻の表紙を飾る猫丁長屋の子猫三匹が聊斎志異に登場する小さな犬の妖・小猟犬を見つける「戯かし猫」
 恋野初風先生が手に入れた、眺めるうちに女性の影が浮かび上がり、動きまわるという茶碗を巡る奇譚「猫茶碗」
 夜鳴きして独りでに沖に出ようとする船と、その船を助けようとする船の守り猫を描く「沖つ船猫」
 猫丁長屋の迷子騒動を通して、いなくなった子供を何年も探す女性の姿を見つめる「迷い子猫」
 ニタ峠の猫又たちから百猫カルタ作りを依頼された十兵衛が、弟子入り志願の猫又とともに奮闘する「百猫歌留多」
 大店で可愛がられている猫又が、鼠によって濡れ衣を着せられた奉公人のため立ち上がる「愛で猫」

 帯で紹介されている西浦さんが本編に登場しないのは残念ですが、しかし今回もお馴染みの顔ぶれが元気にやっているのを見れるのは、なんとも嬉しいことです。
 嬉しいといえば、不思議系といいますか、妖や猫又が登場するエピソードの率が非常に高かったのが、今回個人的に嬉しいところであります。

 特に「猫茶碗」など、茶碗に浮き出た女のシルエットが自在に動き回るという、いかにも「ありそう」な怪談を描きつつも、同時に綺麗に猫漫画として落としているのが楽しいエピソード。
 声も出さず、静かに動く――しかしその感情が伝わってくる――茶碗の女の画が、どこかサイレント映画的な味わいを醸し出しているという、漫画というメディアならではの見せ方にも感心いたします。

 また、安宅丸の伝説を思わせる、海に出ようと夜毎鳴く船を描く「沖つ船猫」も、船丸ごとというこれまでとは規模の違う妖の存在と、それと心を交わすのが猫という意外性も素晴らしい。
 クライマックスも、その妖のスケールにふさわしいスペクタクルの中で、きっちりと十兵衛が自分の仕事をしてくれるのが気持ちのよいところであります。


 しかし、そんな妖たちのドラマだけでなく、きっちりと人情の機微といったものを絵で見せてくれるのも、本作の魅力でしょう。

 この巻でほとんど唯一、不思議系の要素がない「迷い子猫」は、ちょっとした登場人物の表情が胸を締め付けるエピソード。子を亡くした母と、彼女を見つめる十兵衛、その無言の表情が、何よりもその胸の内を深く描き出しているのであります。
 また、これは絵ではなく台詞ですが、「牽牛子猫」のあるシーンも、たった一言の台詞がこちらの胸に深く深く突き刺さるのにも、感心するばかりです。


 人も妖も――この世に在るものたちの喜怒哀楽を、それを見つめる十兵衛とニタを通じて浮き彫りにする。そんな本作のスタイルは、これからも変わらず描き続けていかれることでしょう。


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