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2016.06.25

水上悟志『戦国妖狐』第17巻 そして彼らが歩む道の先に

……長かった旅にもついに終わりの時がやってきました。実に8年に渡り描かれてきた『戦国妖狐』も、この第17巻で完結であります。千本妖狐と化した迅火と千魔混沌をその身に納めた千夜。第一部と第二部、それぞれの主人公の、そして彼らと共に旅してきた者たちを待つものは――

 ほとんど無尽蔵の力を持ちながらも、人と闇(かたわら)、双方が総力を尽くした末、ついに倒された万象王。そして、千夜との対話の末、自分たちの世界を救うための術を悟り、遥かな時の流れの果てに去った無の民。
 決して少なくない犠牲の果てに二つの敵を破り、そして自分の中の弱さと向き合い、克服した千夜は、ついに迅火の潜む島に向かうことになります。

 かつて千本妖狐と化し、そしてそのあまりにも強大な霊力に呑まれて暴走を続ける迅火を倒すのではなく、止める。そして彼を追い続けてきたたまの元に帰す――
 ある意味、倒すよりも遥かに難しいことに、千夜は、真介は、たまは、月湖は、灼岩は挑むのであります。(もちろん、ある程度傷めつけてから説得という、ある意味お馴染みの手段を取ることになるわけですが……)

 ここからはまさに総力戦、それだけでもグッと盛り上がるわけですが、しかしそれ以上に、迅火に最後に呼びかけるのが、第一部の面子というのは、これは流れ的に当然といえば当然なのですが、しかし何とも泣かせる展開。
 物語の初めから追ってきた身にしてみれば、よくぞここまで……と、登場人物一人ひとりの辿ってきた道が、成長が、胸に迫るものがあります。


 そして、全てが終わった先に待っていたもの、ラスト一話前で描かれるそれは、まさに大団円とも言うべき内容。登場人物の誰一人としてないがしろにすることなく、その運命の旅路の向かう先を描き切ってみせてくれたのは、大長編の結末として、この上もないものでありましょう。

 いえ、これで終わりではありません。最終話で描かれるのは、さらにその先の道。
 それは一面、ひどく切ないものではありますが、しかし「人」の命は、想いは、決して途切れることなく続いていく――そしてその形は、一様ではなく、たとえ目に見えない形であっても繋がっていく――ものであることを、本作は高らかに謳いあげているのであります。

 そしてそれは、今ここにいる我々のところにまで、続くものであることも。


 戦国時代という、人と闇が文字通り傍らにあるものとして、その住まう世界を接していた時代。そして、人と人が殺し合い、容易にその命が消費されていく時代。
 そんな中で、人と人、人と闇、闇と闇、それぞれの交わる姿を通じて、人と闇それぞれの異なる在り方を、そして共に相通じる心の存在を、本作は描いてきました。

 ……というのは、こちらの半ば勝手な理解であり、物語の開始から結末に至るまで紆余曲折の連続であったことは、単行本のカバー下に記された作者の言にあるとおりでしょう。
 そのような作品に対して、勝手に読者が何かを読み取り、理解したような気分になることは、滑稽なことであるかもしれません。しかし同時にそれは、素晴らしいことのようにも感じられます。

 なんとなればそれは、本作で描かれてきた温かい何か、それをこちらが受け止め、心に残したことで新たに生まれた想いなのですから――

 迫力溢れるバトルが連続する少年漫画として、人と闇の交わりを描く伝奇漫画として、そしてその中で誰もが持つ想い等身大の浮き彫りにする水上漫画として……素晴らしい作品であったと、心から感じます。


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