« 小松エメル『うわん 九九九番目の妖』 彼女が貫いたもの、彼が乗り越えるべきもの | トップページ | 菊地秀行『血鬼の国』 人間vs妖魔の純粋バトル »

2016.06.08

唐々煙『煉獄に笑う』第5巻 絶望の淵で現れた者

 実写映画化も決定しまだまだ快調の『曇天に笑う』の前史、三百年前の戦いを描く本作も、いよいよ第5巻。ついにその全貌が明らかとなったオロチ候補者の一人であった石田佐吉に、思わぬ試練が襲いかかることとなります。果たして彼はただ一人で絶望の淵から這い上がることができるのか……?

 三百年に一度復活し、この世に災いを齎す呪大蛇。その復活の秘密を握るという謎の「髑髏鬼灯」とついに出会った佐吉は、近江を守って命を散らした曇神社の双子に代わり、大蛇の復活・支配・封印を司る巻物の奪還を託されることになるのでありました。

 しかしその佐吉もまた、大蛇の器になる可能性がある候補者の一人。その候補者とは、佐吉と曇神社の双子のほか、
・織田信長
・明智光秀
・黒田官兵衛
・国友藤兵衛
・国友勇真
・安倍晴鳴
と錚々たる顔ぶれであります。

 そのうちの一人、晴鳴は、代々大蛇と対決してきた陰陽師・安倍家の継承者として周囲からの声望も高い好青年……と見せかけておいて、その内面は、ひどく捻れた心を持つ男。
 大蛇の器は、その者の負の感情が高まった時に現れる――そのため、伊賀の百地一党と結び、候補者たちの心に絶望を植え付けんとする清鳴に狙いをつけられた佐吉の運命は……


 というわけで、佐吉受難編という印象のこの巻で彼を待ち受けるのは、故郷である近江石田村を襲う奇怪な兵の群れ。
 石田の旗印を掲げ、その兜の下に死人の顔を持つその兵たちを操るは、伊賀百地党でも最強を謳われる八它烏たちであります。

 それにしても、故郷の人々に、自分の軍が下手人と思われるというだけもかなりキツいところですが、敵の狙いは、彼の故郷の人々の鏖殺。しかし己が仲間を持つことを良しとしない佐吉は孤立無援の状態であります。
 そんな彼の助けとなるのは、前の巻で描かれた荒木村重を巡る冒険の中で出会った豪傑・島清興(左近)と、曇芭恋に佐吉の警護を託された芦屋弓月のみ。しかし一騎当千の彼らも、敵の卑劣な手の前に倒れ、ついに佐吉が絶望に沈みかけたその時――!


 巻の後半丸々が佐吉たちと八它烏の攻防戦というバトル編であったために、物語の進行としてはかなり遅い印象があるこの第6巻。
 物語に絡むであろうキャラクターたちが出揃い、解き明かされるべき謎の数々が提示された、先の展開が気になって仕方がない時に、このペースダウンは厳しい印象があります。

 しかしこの巻のラストで見せられたものを思えば、そんな不満を言いたくなる口も噤むしかありません。
 そう、あの千両役者たちが帰ってくるのですから……それも、我々読者たちにとっても、そして佐吉にとっても、望む中で最も理想的な形で。


 頑なに仲間を持たず、一人で生きることを選ぶ――それは、己が他の者の生を背負うことを恐れ、拒否することにほかなりません。
 しかし、否応なしに仲間を得た佐吉は、その想いを、生き方を変えざるを得ません。そしてそれは、佐吉を支えることを宣言した彼らにとっても、同様でありましょう。

 この巻で、他人の空似ではなかったことが明確となった信長(そもそも今回、佐吉は主君の主君である信長の呼び出しを受けていたのですが)も気になるところで、佐吉の受難はまだまだ続きそうな印象はあります。
 しかし佐吉と仲間たちがこの先、如何なる道を歩み、そして近江を覆う曇天を吹き飛ばす風雲児となるのか……大いに楽しみになってきたではありませんか。


『煉獄に笑う』第5巻(唐々煙 マッグガーデンビーツコミックス) Amazon
煉獄に笑う 5 (マッグガーデンコミックス Beat'sシリーズ)


関連記事
 「煉獄に笑う」第1巻 三百年前の戦いに集う者たち
 『煉獄に笑う』第2巻 へいくわいもの、主人公として突っ走る
 唐々煙『煉獄に笑う』第3巻 二人の真意、二人の笑う理由
 唐々煙『煉獄に笑う』第4巻 天正婆娑羅活劇、第二幕突入!

|

« 小松エメル『うわん 九九九番目の妖』 彼女が貫いたもの、彼が乗り越えるべきもの | トップページ | 菊地秀行『血鬼の国』 人間vs妖魔の純粋バトル »

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/13655/63736690

この記事へのトラックバック一覧です: 唐々煙『煉獄に笑う』第5巻 絶望の淵で現れた者:

« 小松エメル『うわん 九九九番目の妖』 彼女が貫いたもの、彼が乗り越えるべきもの | トップページ | 菊地秀行『血鬼の国』 人間vs妖魔の純粋バトル »