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2016.06.12

あさのあつこ『燦 7 天の刃』 過酷な現実に挑む少年たちの絆

 一年ぶりに刊行の『燦』もこれで第7弾。波瀾万丈であった江戸での生活を終え、ようやく田鶴の地に帰ってきた燦・伊月・圭寿・しかし燦の前に突きつけられたのは、地獄というのも生ぬるい過酷な現実でありました。果たして燦の選択は、そして藩政改革に邁進する圭寿と伊月を待つものは――

 江戸での闇神波との戦い、そしてその背後に潜むある人物の捻れた想いとの対峙。それぞれ意外な形となった女人との出会いと別れ……それらを経て、少年たちは田鶴の地に帰ってきました。圭寿は藩主として、伊月はその側近として、燦は彼らの協力者として。

 しかし燦を待っていたのは、殺意の込められた飛礫の襲撃でありました。そしてそれを放った者は、かつて田鶴で共に暮らしてきた弟分・與次。燦に対して、與次は血を吐くように、彼が江戸に向かった後の出来事を語ります。

 その内容とは……いやはや、本当に酷い。非道い。既にかなり前の巻でこの展開は暗示されてはいたのですが、しかしここまでとは……と言いたくなるような地獄展開であります(ここで表紙を見てまた暗澹たる気持ちに)。
 決して燦が悪いわけではないものの、しかし彼に責任が全くないとは言えない状況で起きた惨劇に、如何に燦とて、平静を保つこともできないのは道理でしょう。

 そして厳しい現実に直面したのは燦だけではありません。圭寿と伊月もまた、彼らのあるべきところで戦いを始めることとなります。
 それは藩政の立て直し――浪費と災害で痛めつけられた田鶴藩を救うため、根底からの改革を目指す二人の壁となるのは、当然ながら旧来の制度。そしてその核の一つは、伊月と燦の父たる筆頭家老・伊佐衛門であります。

 妻・八重(すなわち伊月の義母)に対して理不尽な選択を告げる伊左衛門の真意はどこにあるのか。そして彼の政敵であり、改革の真の敵と言うべき次席家老と、彼と結ぶ政商の動向は。
 藩政を巡る動きは、先に述べた燦の物語とも意外な形でリンクを見せ、物語はさらに錯綜していくことになります。

 いや、さらに物語を複雑化される動きがもう一つ。圭寿の兄の側室であり、妖女として周囲に忌み嫌われる女性、そして伊月にとっては初めての人である静門院が、自分の懐に飛び込んできたお吉を、圭寿の側室として送り込もうとしていたのであります。

 前巻で描かれた静門院の過去を思えば、彼女の真情は信じられるように思いますが、しかし全てが丸く収まるのか……これまで、誰かの想いが他者によって歪められてきた姿を目にしてきたことを思えば、まだまだ不安になるところではあります。


 しかし、こうして様々な形で降りかかる悲劇を、様々な形で立ち塞がる壁を乗り越えることができるものがあるとすれば、それは若さであり、そしてそれが生み出す人と人の想いの繋がりでありましょう。
 これまでの物語の中で培われてきた伊月と燦と圭寿の絆。そして彼らの周囲の人々との絆。それは、こうした困難に負けず、自分たちの想いを――希望を、貫く力を持つと感じられます。

 その現れの一つが、本作のクライマックスで描かれる、伊月とある女性の対面の様であります。
 先に述べた悲劇に触れ、これまで見せたことのないような姿を見せた燦。その彼に対して、伊月もまた渾身の想いで応え、そしてその想いは、ついに凍てついた心を動かすのですから……
(そして同時に、ここで描かれる細やかな心情描写は、さすがはこの作者ならではと感心させられるのです)


 実は本作は、8月に刊行される第8巻においてついに完結するとのこと。全ての役者が田鶴に集結せんとする中、果たして物語は如何なる結末を迎えるのか……
 意地悪なことを言えば、何となく落としどころは見えてきたようにも思うのですが、少年たちの貫く希望の姿に期待して、再来月を待ちたいと思います。


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