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2016.06.17

高橋克彦『天狗殺し 完四郎広目手控』 謎解き道中江戸から京へ、京から江戸へ

 侍を捨て、広目屋――江戸の広告代理店稼業となった変わり者・香治完四郎の活躍を描くシリーズ第2弾であります。前作のラストの安政の大地震から3年後、幕末の動乱がいよいよ深まる中、完四郎と仮名垣魯文は、京の動静を探るための旅に出ることになります。

 江戸一番の広目屋、藤由こと藤岡屋由蔵のもとで居候する青年・香冶完四郎は、名門の出身ながら家を飛び出し、北辰一刀流免許皆伝の刀も竹光に変えての呑気な暮らし。同じく藤由のもとでゴロゴロしている仮名垣魯文を相棒に、その優れた頭脳で市井の怪事件の謎を解いてきました。

 しかし、時は幕府の、いや日本の舵取りを巡って激動が続く時代。井伊直弼が強権を振るい、広目屋も迂闊なことを書けない状況の中、完四郎は京の動静を探ることになります。
 そんなわけで魯文とともに京に向かうこととなった完四郎ですが、道連れが二人。一人は京で医学を修行するという美女・お杳。そしてもう一人は、京に詳しく、そして完四郎とは千葉道場の同門に当たる男、坂本龍馬!

 と、第1作とは趣を変え、冒頭とラストを除いては、江戸を離れての珍道中が繰り広げられるわけですが、もちろんただで済むわけがなく、行く先々で怪事件に巻き込まれては、その解決に奔走するというのが、本作の基本パターンであります。

 プロローグである第1話に続き、お杳を迎えに行った先の江ノ島が舞台の第2話、以降、藤沢、金谷、宮、関と第6話まで東海道を西に向かい、京を舞台に第9話までの3つの物語が描かれることになります。
 そして帰り道は中山道を宮ノ越、軽井沢と第11話までの2話、最終話では再び江戸を舞台とすることになるのです。。

 もちろん、旅先で起きる事件は、その土地ならではの(?)ものばかり。宮では熱田神宮に収められた神剣を巡る怪異、関では鈴鹿峠の鬼退治、京では崇徳院の怨念がこもるという魔の山に、祇園社の伝説の抜け穴探しと、いずれもケレン味たっぷりの怪事件が描かれるのが楽しいところです。
 その中でも特に印象に残るのは、金谷を舞台とした「お岩怪談」と、軽井沢を舞台とした「天狗殺し」であります。

 前者は、伝説に名高い小夜の中山の夜泣き石の周囲に夜な夜な化物の群れが出没するという、江戸っ子好みな(?)派手な怪談の背後に隠された真実を探るエピソード。
 次々と登場する怪異と、それに馬鹿正直なリアクションを見せる魯文が楽しいのですが、その背後に、いかにも広目屋向けの真実が隠されているのが、本シリーズらしい面白さでありましょう。

 一方、表題作である後者は、雪の軽井沢を舞台とした不可能殺人の謎解き。雪の降り積もった翌日、足あと一つない畑の真ん中に女の死体がバラバラになって落ちていたという、天狗が殺したとしか思えないシチュエーションを描く本作は、一種の密室ものとして楽しめる作品です。
 ゲストとして河鍋暁斎が登場し、魯文と愉快な掛け合いを見せるのも、虚実入り乱れる本作らしい趣向と言えましょう。


 このように各話趣向を凝らした物語が楽しめる本作ですが、しかし残念ながら、幾つか不満があることも事実であります。
 一つは、折角新たに登場した龍馬とお杳が、それほど活躍しない点。また一つは、広目屋という本作ならではの題材が、第1作ほどは物語で活かされているとは言いがたい点なのですが……しかし一番大きいのは、お映の予言の存在です。

 前作でも登場した予言能力を持つ少女・お映。本作では、旅立つ前に彼女が視た不完全な予言の断片が一種のキーワードの形で各話に登場することとなります。
 それ自体は良いのですが、しかしその存在が物語の意外性を削いでいると言いましょうか、後付の理由付けのようになってしまっているのが勿体無い。

 素人考えで恐縮ですが、小出しにするのではなく、最初に全ての予言の断片を見せておいたのであれば、それはそれで謎めいたキーワードとして楽しめたと思うのですが……


 そんなわけで、百点満点とは言いがたいところではありますが、幕末の騒然とした空気を、庶民目線で――それもミステリという切り口で――描くというスタイルそのものはやはり魅力的であります。
 また、江戸に帰ってきての最終話で描かれる、一種の権力犯罪に挑む反骨精神も(そして逆にそれを悪用しようとする捻りも、やはり本シリーズらしいところでしょう。

 次の巻は幕末の横浜を舞台とした物語が描かれることになりますが、こちらも近いうちに紹介したいと思います。


『天狗殺し 完四郎広目手控』(高橋克彦 集英社文庫) Amazon
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