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2016.06.11

さいとう・たかを『買厄人九頭竜』 根底に流れる人間臭さの発露

 現在、宮川輝によりリメイク中の石ノ森章太郎『買厄懸場帖 九頭竜』。その同じ作品を、かつてさいとう・たかをがやはりリメイクしたのが本作『買厄人九頭竜』。原作の骨子を踏まえつつも、見事に換骨奪胎して、作者自身の作品としてみせた佳品です。

 本作の主人公・九頭竜は売薬人を表の顔として、そして他人の厄を一件九十両で買う――すなわち雇われて厄を片付ける買厄人を裏の顔として諸国を放浪する男であります。
 そして彼が煙草入れにつけた前金物もまた、九頭の竜、すなわち九頭竜。幼い自分をかばって殺された母が手にしていたその前金物を手に、彼はその由来、すなわち母を殺した下手人の行方を探しているのです。

 そんな本作の設定は、原作から全く変わるものではありません。そして本作を構成する全6話も、基本的に原作のエピソードを踏まえたものであります。
 が、本作と原作を読み比べてみると、設定と物語は共通しながらも、全く別個の作品として――原作が石ノ森章太郎の作品であるのと同様、本作はあくまでもさいとう・たかをの作品として感じられるのが、何とも興味深いのです。


 徹頭徹尾ドライであった原作に対し、どこか人間の体温を感じさせる本作。それは原作が厳しい自然と対比、あるいは並置する形で人間の姿をどこか客観的に描いていたのに対し、本作はその中の人間の喜怒哀楽、愛情や欲望といった様々な感情を、より生々しく描いているからと感じられます。

 例えば本作の第1話「生駒颪の里」は、原作の同じく第1話「一番目の闇送り」をベースとしつつも、その点をはっきりと示したエピソードとして感じられます。

 冒頭、復讐のために故郷に帰ってきた渡世人が刺客を返り討ちにする殺陣と並行して描かれるのは、その仇が女を抱く姿。
 アクションとエロスが渾然一体と、スピーディーに描かれていくこの導入部から引きこまれますが、本作の原作との最大の相違点である、この女こそが実は……という終盤の展開は、本作ならではの人間臭さ、生臭さの発露として印象に残るのです。

 そしてそれ以上に本作らしさ、作者らしさがよく現れているのが、第3話「湯煙の向こう」であります。このエピソードは、原作のやはり第3話「母の亡骸」を基にしたもの――自分の女を寝取られた商人に雇われた九頭竜が、駆け落ちした女と男を追うという骨子は同じながら全く異なる展開を見せるのです。

 原作ではこの女は商人の妻、男は商家の番頭で、女が文字通り九頭竜を抱き込もうとするも……という展開。その一方で本作においては男は武士、それも新米の仕事人という設定なのが実にユニークかつ作者らしいアレンジではありませんか(さらにいえば、見るからに作者らしい好青年顔なのもいい)。

 九頭竜はこの武士を討ちに行くわけですが、武士の方はそうと知らずに九頭竜に親しみを覚え、九頭竜の方も武士の方に仕事人の心得を語るという関係性が面白い。
 クライマックスは武士が直前の仕事でのミスから足がつき、迫る刺客の群れを二人で迎え撃つのですが、その後やはり……という展開で、原作で衝撃的だった結末も、絵としては同じながら、また別の印象を受けるのです。


 さて、上で述べたとおり本作は全6話ですが、原作は30話弱と、分量的には相当の違いがあります。原作では、全体の三分の一程度で彼の母殺しの下手人が判明、次いで九頭竜の前金物の秘密もわかった上で、以降はその秘密を巡る者たちとの死闘や、九頭竜を慕うヒロインとの交流が描かれるのですが――
 本作はそれをばっさりとカット。母の下手人が判明した時点で(原作とは順番を変えてその前に九頭竜の秘密が判明)物語は終わりを告げることとなります。

 こう書けば性急に過ぎるように見えるかもしれませんが、しかし原作の物語がこれ以降伝奇性を増し、作品の趣向にいささか変化が見られたことを思えば、ここで終わらせるのも、これはこれで見事な判断と感じます。
 本作の結末で見せた九頭竜の激情は、本作の根底に流れてきた人間臭さの爆発というべきものでありましょうから……


 ちなみに私の手元にある廉価版コミックスには、本作の他に、商人を陰から守る謎の剣士の活躍を描く『江戸、鬼が通る』、人斬り稼業の浪人と取り立て屋、海産物問屋のどら息子が魔鯨に挑む『男どもの海鳴り』を併録。
 特に後者は本来であれば全く交わることのないような三人の主人公と、人々に恐れられる巨大な鯨の取り合わせ、そしてそこから生み出される起伏のある展開が実に良く、爽快な結末も印象的で、思わぬ拾い物をした印象であります。


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