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2016.06.01

堀川アサコ『大奥の座敷童子』文庫版 書き下ろし新作短編収録!

 堀川アサコの『大奥の座敷童子』が文庫化されました。十三代将軍家定の時代、貧乏藩を救うために大奥に上がった少女・イチゴを主人公とする本作については、既にこのブログで取り上げていますが、今回は文庫版に収録された書き下ろし短編『おっかさま』を紹介しましょう。

 吹けば飛ぶような田舎の野笛藩を救うため、大奥に上がることを命じられた、一応藩一の美女・今井一期(イチゴ)。彼女の使命は、かつて野笛藩にいたものの、とある女性と一緒に大奥に行ってしまった座敷童子を探すことでありました。
 しかし大奥は複雑怪奇な場所、神出鬼没に枕絵を置いて回る「枕絵の妖怪」、誰かが死ぬとき泣くという「泣きジジ様」などが出没する上に、イチゴは幕府の命運にもかかる大事に巻き込まれることになります。

 それでもバイタリティ溢れる彼女は、イケメン伊賀者の唐次、謎の快人物(その正体は……)・サダさんとともに、見事事件を解決し、皆を幸せに導くのでありました。
 ……というのが本編のあらすじですが、今回新たに収録された『おっかさま』は、その続編、本編終了後のおはなしであります。

 サ……家定のもとにいよいよ御台所が輿入れしようという頃、突如大奥で流行りだした謎の病。高熱を発して苦しむその病にかかった者の中は、皆「筥迫(小物入れ)」という譫言を発するのでした。
 家定までもが倒れた中、これが病ではなく何かの祟りと考え、唐次とともに探索を始めたイチゴは、怪事の裏に潜む忌まわしくも悲しい事件の存在を知るのですが――


 と、本編とは内容的には完全に独立した本作ですが、登場するのはほとんどオールスターキャストなのが嬉しいところ。
 イチゴ・サダさん・唐次のトリオはもちろんのこと(サダさんは出番は少なめではありますが)、イチゴの親友である茜をはじめとする大奥の人々、さらには泣きジジ様まで、懐かしくも(というのは単行本読者の感想ですが)楽しい顔ぶれが再び登場してくれるのです。

 しかし、展開される物語の方で描かれるのは(これも本編同様)賑やかで楽しいばかりではない、いやむしろ、哀しく無惨で、どうにもやりきれない真相。
 それは、確かにこの時代、この舞台なればこその物語なのですが……しかしその根底にあるものは、決して今ここにいる我々とも無縁ではないもの。人の心の中の仄暗い部分なのであります。

 しかし、本編がそうであったように、本作もまた、決してそのままでは終わりません。人の心に陰があったとしても、同時に人の心には陽がある。たとえ頑なに凍り付いていたとしても、それを溶かすだけの力を持った暖かさが。
 そしてもちろんそれを体現するのが、イチゴの存在であることは、言うまでもありません。

 時にコミカルで、時に恐ろしい物語の中で、人の心の中の陰と、光を浮かび上がらせる。本作は短編ではありますが、しかし本編同様、作者の得意とする、作者ならではの物語を描き出しているのであります。


 このように、単行本読者にとっても見逃せない今回の文庫化なのですが、しかし、この短編を読んで改めて感じたことがあります。それはもちろん、この物語世界が、この一冊で終わってしまうのは、やはり惜しい、惜しすぎるということであります。

 家定の御台所といえば、かの天璋院篤姫。この人物が、この物語世界に入ってきたら、イチゴやサダさんと出会ったら、と思うだけで、なにやら実に楽しい気分になってくるのですが……
 ぜひぜひ、続編をお願いしたいという想いは、本編初読の時から変わっていないのであります。


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大奥の座敷童子 (講談社文庫)


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