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2016.06.22

荻原規子『あまねく神竜住まう国』 少年頼朝、神と魔が存在する地に立つ

 平安末期を舞台とした歴史ファンタジー『風神秘抄』の、十年ぶりの続編とも後日譚とも言うべき作品、『風神秘抄』の主人公・草十郎と糸世によって死の運命から救われた源頼朝を主人公として、流刑先の伊豆で彼が自らの運命と対峙する姿が瑞々しく描かれる物語であります。

 平治の乱に源氏側で参加した笛の名手の少年・草十郎。彼が、敗走して彷徨う中で出会った舞姫・糸世と強く惹かれ合い、そして数々の冒険の果てについに結ばれる様を、『風神秘抄』は描きました。そしてその物語の中で彼らが救ったのが、本作の主人公である少年頼朝であります。

 その力が極まるところ、時空の因果を歪め、人の運命すら変えることができる二人の笛と舞。それによって処刑される定めであった頼朝は、助命され、伊豆に流刑されることとなったのですが……しかし命永らえたとはいえ(そして一応従僕がいるとはいえ)、一族郎党と死別した少年にとって、流刑先の暮らしは過酷なものであります。

 領主の突然の死の原因と疑われ、半ば生け贄のように、大蛇が住まうという中洲に住まわされることとなった彼は、父や郎党の死までも自分の存在のせいのように考え、さらに孤独に沈んでいくのですが――そこに現れた草十郎と糸世が、彼の運命を再び大きく変えていくことになるのです。


 というわけで、頼朝にとっては大きな驚きと喜びとなった草十郎との再会ですが、それは我々読者にとっても同じこと。
 一つの物語として『風神秘抄』は見事に完結したものの、しかし草十郎が、糸世とその後どのような人生を送ったかは、やはり気になるというのが人情でありましょう。

 そしてその後の草十郎と糸世の姿は、ある意味予想通りであり、ある意味予想と違うものでした。
 予想通りというのは、もちろん二人がどこまでも仲睦まじく――そして草十郎が相変わらず糸世に振り回されて――過ごしていること。そして予想と違ったのは、二人の暮らしに、なおもこの世ならざる者の影が迫っていたことであります。

 先に述べたとおり、その力で頼朝の運命を変えた二人。その力が元で一度は引き裂かれ、そして再び出会った時にその力が失われたことで、二人は自分たちを縛るものから解き放たれたかと思われたのですが……しかし、二人に、そして頼朝に因縁を持つ死者の影は、彼らを執拗に追っていたのです。

 そして特別な力を失い、あまりに深くその影と関わってしまった二人に代わり、影を打ち払うことができるのは、ただ一人、頼朝のみなのですが――


 これまでの勾玉シリーズ、そして『風神秘抄』と、巻を重ねるに連れ、伝説から歴史へと近づいていく作者の歴史ファンタジーシリーズ。本作においては、頼朝を主人公として、そしてその史実を踏まえた舞台を設定することで、よりその度合いは深まったといえます

 しかしその中でも変わらないのは、神話や歴史といった巨大な枠組みの中で、そして神や社会の趨勢といった巨大な存在と対峙する中で、在るべき自分自身を見出し、そしてそれを貫く少年少女の姿でありましょう。

 もちろんそれは本作においても変わることはありません。運命に翻弄され(その運命から救い出されたことで更に別の運命に因われ)、そしてその中で孤独と絶望に沈みかけた頼朝。そんな彼は、彼らに迫る影自身と最も近しい存在である……そう言ってよいかと思います。
 しかし、人は変わることができる。たとえ一人では小さく、弱い存在であったとしても、容易に流され、沈み込む存在であったとしても――誰かと共に在ることで、そして、自分の足で立ち上がることで。

 本作は神も魔も、様々に存在する地で繰り広げられる歴史ファンタジーであると同時に、そんな頼朝の、等身大の一人の少年の成長物語でもあります。
 そしてそれこそが、本作がこれまでの物語同様、児童文学の形で描かれる理由でもありましょう。


 ちなみに本作は『風神秘抄』の後の物語であるために、あのキャラクターは登場しないのですが……しかし、その名は、作中で確かに語られることになります。それも最も嬉しく、感動的な形で。
 『風神秘抄』読者としては、涙が出るほど嬉しいサービスであります。


『あまねく神竜住まう国』(荻原規子 徳間書店) Amazon
あまねく神竜住まう国 (児童書)


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