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2016.06.04

伊藤ヒロ&峰守ひろかず『S20/戦後トウキョウ退魔録』 現実と虚構の境目を描く退魔譚

 終戦直後の昭和20年代、東京亀戸で紙芝居制作屋を営む二人の男――豪傑肌の茶楽呆吉郎と、妖しげな美青年・襟之井刀次には、もう一つの顔があった。「不思議問題解決相談承リマス」――この国を騒がす奇怪な事件を解決し、この世の者ならざる怪異を打ち砕くために、二人は今日も奔走する。

 S20――昭和20年代を舞台に戦後日本を騒がした事件とその背後で蠢く怪異を、二人の作家が二人の主人公の一人称で交互に描く、極めてユニークな連作集であります。

 その二人の主人公とは、南洋帰りの刺青巨漢・茶楽呆吉郎と、隻眼隻腕白髪の美青年・襟之井刀次――表の顔は、呆吉郎が物語を、刀次が絵を担当する紙芝居屋を営む二人ですが、しかしもう一つの顔である退魔業こそが、彼らの真の使命なのです。
 拝み屋の家系に生まれ、南洋で原住民から不死の呪いをかけらえた呆吉郎。旧日本軍の秘密兵器である鉄腕を武器に、姫様と奉じる(外見は年端もいかぬ少女の)摩姫とともに怪異と戦ってきた刀次。

 生まれも育ちも主義主張も能力も全く異なるものの、一朝事あらば抜群のチームワークで挑んでいく二人なのですが、しかし彼らの挑む事件、そして挑む相手は、いずれも一筋縄ではいかないものばかりであります。
 巨大な鋼鉄の人形、哄笑する髑髏面の怪人、宙からやって来た河童、常世に招く双子の美人……ん、どこかで見たことあるような?

 そう、本作に登場する怪異や事件の数々は、いずれも現実に存在したもの、あるいは現実で描かれたフィクションに登場するものを踏まえたもの。言ってみれば一種のパロディなのです(ちなみに主人公二人も、先日亡くなったあの大作家のキャラの面影が……)。

 しかし面白いのは、そのパロディと現実との関係を、さらに一ひねりしていることであります。
 実は二人と行動を共にする摩姫の主な役割/能力は事件に関する人々の記憶を抹消すること。しかしその抹消が不十分で、一部が残ってしまった時、その残った一部が、後にフィクションの形で語られることとなるというわけで……この何ともぬけぬけとした(褒め言葉)逆転の構造が、実に気持ち良いのです。


 特に、上で述べた髑髏面の怪人との対決を描く「誰がために戦う」は、その髑髏面が、金ではなく××製という捻りも楽しいのですが、さらにクライマックスに登場するもう一人の存在の正体にはもう脱帽であります。
 いやはや、強引といえばあまりに強引なネタの持ち込み方なのですが、しかしその無茶苦茶な取り合わせがむしろ痛快。それ以上に、虚構と現実を股に掛けたヒーローが、自分の行いに悩む呆吉郎に進むべき道を示すという構図も、また泣かせるのです。


 さらにこうした物語に実在の人物も絡んで、虚実の境がいよいよ曖昧となっていくのも嬉しく、全編これ私の大好物……と言いたいところなのですが、しかし残念な点も存在いたします。それは、ここで扱われる現実が、些かならずとも軽く見えてしまうことであります。

 先に述べたとおり、本作は現実をパロディとして描いた作品であります。その上で、その現実をエンターテイメントとして俎上に載せる、それは一種伝奇ものとしては当然の行為ではありますが……しかし本作の場合、そこで描かれるものが、ただ面白がらせるだけの手段で終わっているように感じられてしまうのです。

 何もしかつめらしく、生真面目に描くべき、テーマ性を盛り込むべし、とは申しません。しかし、後世の人間が、厳しい言い方をすればフィクションの題材として美味しいところ取りのみをしてよいものなのか……これは考えてみるべき点ではないかと感じます。

 現実は物語の元ネタなのか。物語は現実の後始末なのか……現実と虚構の境目を描く物語だけに、大好きな題材と趣向なだけに、些か神経質なほどに、この点は気になりました。
 これも好きな言い方ではありませんが、先行する近い趣向の作品が、その点に充分留意していることを考えれば……


 今月、続編が刊行されるという本作。さてそちらでは、現実と虚構は如何にパロディされているのか、両者の関係は如何に描かれているのか……些か厳しい視線になるかもしれませんが、その点も含めて注目したいと思います。


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