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2016.06.16

光瀬龍『歌麿さま参る』(その二) ひねりを効かせた時代SF作品集

 光瀬龍の時代SF短編集『歌麿さま参る』の紹介の続きです。今回は残る3編を紹介いたしましょう。

『勝軍明王まいる』

 豊島郡で毎年行われる奉納仕合のために雇われた武士の一人が、神罰で不具の身となってしまった。武士の女は復讐を企むが。

 本作もまた、現代から――これまたどこにでもありそうなスナックから始まる物語。しかしすぐに舞台は江戸時代の豊島郡、当時は片田舎に飛ぶことになります。
 ここで毎年行われるのは勝軍明王の神域の柴刈りの権利を賭けた奉納仕合。出場するのは彼らに代理として雇われた武士だった……という行事・風習がどこまで本当のことかわかりませんが、実際にありそうなお話です。

 その武士の一人が、明王の天罰で目も見えず、口も利けない身になってしまった復讐に、武士の女が人間離れした巨体と悪相を持つ「弟」を連れてくるのですが……
 お話的には他の作品に比べるとシンプルな印象ですが、クライマックスで明かされるある人物の正体はなかなか面白いひねりではあります。


『紺屋町御用聞異聞』

 隠し売女の調べに駆りだされた御用聞きの延次――実はタイムパトロールである彼は、奇怪な「女」の陰に潜むのが時間密航者であると睨み、行動を開始するのだが……

 本書に収録された作品(というより作者の一連の作品)の中では珍しく、冒頭から主人公・延次がタイムパトロールであることが明かされる本作。
 御用聞きの方の任務で同僚の御用聞きと二人、破格の金を取るもぐりの女郎屋の内偵に向かった彼は、そこで働く女を巡り、数々の常識では感じられる状況があることに不審を抱くことになります。

 さらに同僚が死体となって見つかり、これが時間密航者絡みの事件であると睨んだ延次は、単身女郎屋に潜入を試みるのですが……と、ここで物語は思わぬ展開を見せることとなるのです。
 その展開の内容については述べられませんが、その意外性は、比較的似たような構造の物語が続く本書のような作品集でこそ大きなインパクトを持ちます。

 作中に幾度も差し挟まれる延次のモノローグからにじみ出る時間駐在員の孤独も切なく、それがより一層、この結末に響くのであります。


『歌麿さま参る 笙子夜噺』

 現代の古道具屋や画廊に、写楽らの幻の作品が次々と持ち込まれた。それが同一人の手によると睨んで江戸時代に飛んだ笙子・かもめ・元の三人は、ある人物に接近するが……

 ラストの表題作は、『征東都督府』『幻影のバラード』『所は何処、水師営』の三部作に登場するタイムパトロールが活躍する作品であります。
 幻の浮世絵師である写楽の、未発表の作品が現代で見つかるという導入部は、これも一種のオーパーツものというべき展開ですが、そこから舞台は江戸時代に移り、写楽の版元である蔦屋を狙う盗賊団に物語がフォーカスしていくのには驚かされます。

 さらに物語は蔦屋が後援する歌麿の苦悩に移っていくのですが……ここで登場するのが写楽ではなく歌麿というひねりもまた面白い。
 締め切りに呻吟する彼の姿の真に迫った描写や、クライマックスにさらりと描かれるエロチシズムも、ベテランの技を感じさせます。

 「敵」の企みも、ある意味等身大のスケールであるだけにかえってリアル(本書中で最も知能犯?)で、ミステリとしても楽しめる作品かと思います。


 以上6作品を駆け足で紹介させていただきました。光瀬龍の時代SFについては、これまでもこのブログでかなり紹介してきたつもりではありましたが、考えてみるとまだまだ……な状況。今後は、まず上で触れた三部作を取り上げていこうかと考えているところです。


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