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2016.07.28

くせつきこ『かみがたり 女陰陽師と房総の青鬼』第3巻 記憶と時間、人間と鬼の旅路の果てに

 神を騙る(残念な)美女陰陽師・志摩と、無愛想で凶暴な青鬼・アオが、最強の鬼たる赤鬼を追っての旅を続けてきた本作も、いよいよこの巻で完結であります。ついに赤鬼の居所を突き止めた二人が向かった先で待ち受けていたのは、あまりに意外な真実。果たして二人の旅の結末は……

 「神騙り」と称して、金さえ貰えば神様の代わりに願いを叶えるという胡散臭い稼業を続ける志摩。その彼女が手にした角は、かつて房総で暴れまわった最強の双鬼の片割れであるアオのものでした。
 鬼は自分の角を持つ者には手を出せないという法則どおり、志摩に頭の上がらぬまま旅を続けるアオですが、その二人が共通して追い求める存在こそが赤鬼であります。

 人の負の想いに憑く「隠」を滅ぼすため、隠が現世に現れる黄泉の闇穴の秘密を握るという赤鬼を追う志摩と、自分を裏切り見捨てた赤鬼に復讐せんとするアオ――利害関係が一致した二人は、(アオ的にはやむを得ず)コンビを組んで、今日も赤鬼の手がかりを追うのでした。

 そして最終巻であるこの第3巻では、ついにその赤鬼との対決が待ち受けているわけですが……しかし前半は、これまで同様人に憑いた、あるいは人を狙う隠との対決を描く単発エピソードなのは、意外とも思えます。
 しかしそれも計算の上。これらのエピソードの中には(もちろんこれまでのものにも)、その後に繋がっていく大事な要素が描かれているのです。

 それは「記憶」――時間の流れの中で積み重ねられてきた、時間に刻みつけられた人の想いであります。

 もちろん、一口に記憶といっても、楽しいものばかりではありません。辛い記憶、暗い記憶……そうした想いの固着こそが、本作においては隠を生み出してきたことは、これまで描かれてきたとおりです。しかしそれと同時にその記憶こそが、時に人が隠に抗し、打ち砕く原動力となることもまた。

 そしてまた、その「記憶」こそは、アオが、最強の双鬼である青鬼が持たないものであります。
 ただ赤鬼とともに(おかしな表現ですが)物心ついた時から暴れまわってきたアオ。それだけの存在であった彼には、記憶というものがなく――そしてそれは同時に、彼にとって「時間」の概念もまたないことを意味するのです。


 人と鬼の、志摩とアオの間を分かつ記憶と時間の存在。それは思いもよらぬ展開を見せるクライマックスにおいて、大きな意味を持つこととなります。

 冒険の果てについ二人が赤鬼と対峙した時――物語は、いくらなんでもここまでの展開を見せるとは思わなかったと言う他ない、あまりにも意外な真実を浮かび上がらせるのです。
 これは是非実際の作品に触れていただきたいのですが、ここでこれを持ってくるか! と唸りたくなるような題材のチョイスと、そこから浮かび上がる赤鬼とアオの正体……さらに言えば思いもよらぬ大どんでん返しと、そこに密接に結びついた大逆転には、大いに感心させられた次第。

 正直に申し上げれば、本作は伝奇というよりファンタジーの要素が強い作品、実在の伝承よりも架空の要素をベースとしたものと思い込んでおりましたが、いやはやは最後の最後で嬉しい背負い投げを食らった気分です。
 さらにさらに……ここで先に触れた「記憶」の存在が、志摩とアオを救い、二人の新たな関係性を生み出すのには、ただお見事、と申し上げるほかありません。


 一見アバウトな外見の中に、きっちりと構成された、豊かな想いが積み重ねられている……本作は、そんな志摩や、アオに通じるような物語。
 全3巻、あっという間ではありましたが、実に中身の濃い、素晴らしいお話だったなあと、読み終えた後に笑みが浮かぶような作品であります。


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