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2016.07.17

輪渡颯介『夢の猫 古道具屋皆塵堂』 これで見納め!? オールスターキャストの猫騒動

 曰くつきの品物ばかり集まる古道具屋・皆塵堂を舞台に、故あってそこで働く羽目になった若者たちが怪異に翻弄される姿を描く、だいぶ怖くてちょっといい話シリーズも、いよいよ最終巻。少女の夢の中に現れた猫を巡り、今回はオールスターキャストで賑やかに展開します。

 父親を亡くし、天涯孤独の身の上となった少女・おきみ。残された借金を返すため、父が集めていた根付を売りに骨董屋を訪れる彼女ですが、その前夜に決まって、後ろ足の先だけ白い足袋を履いたような黒猫が店で暴れる夢を見るのでした。
 不思議なことに、翌日骨董屋に行ってみれば向こうの店主も同じ夢を見ており、根付も売れず……その繰り返しで、ついに己の身を売ることになったおきみのことを知った皆塵堂の主・伊平次は、いつもの面子を引き入れて、一計を案じることになります。

 という第一話から始まる本作は、これまでにも増して猫、猫、猫の一冊。本シリーズは、ほぼ一巻おきにタイトルに「猫」の字が入ることからわかるように、何かと猫に縁のある物語が多かったのですが、本作はおきみの夢に現れた足袋猫を探して、東奔西走することになります。……円九郎が。

 この円九郎は、前作『影憑き』の主役を務めた若者。大店の跡継ぎでありながらも遊びにうつつを抜かして勘当され、おまけに祟られて死にかけたというろくでなしであります。
 前作で修行代わりに皆塵堂に放り込まれ、祟りからは解放されたものの勘当は解けず、いまは隣の米屋で働かされている円九郎。しかし何かヤバげな事件があれば、呼び出されてこき使われるという身の上なのです。

 というわけで、今回も猫探し……と並行して曰くつきの品物の扱いを押し付けられた円九郎を中心に展開する今回。
 正直に申し上げれば、初の女性主人公としておきみメイン、と思っていただけにいささか拍子抜けの印象は否めませんが、それでももちろん、描かれる曰くつきの品物と、それにまつわる事件の数々は、今回も十分に面白怖いのです。

 夜になると蓋を押しのけて何かが現れる硯箱、子を殺され首を吊った娘にまつわる幽霊屋敷、ある男に取り憑いて執拗に苦しめる老人の霊……
 冷静に考えると滅茶苦茶怖いのですが、怖がらされる連中が妙な人間ばかりのため、なんだか可怪しい/可笑しいというシリーズのテイストは、今回も変わりません。


 そして何よりも今回の最大の魅力は、これまでの歴代主人公が次々と登場する、オールスターキャストという点でしょう。

 体質的に見えてしまう霊よりも猫が怖い太一郎。背負ったひたすら不幸な過去のためか異常に陰気な庄三郎。生真面目で有能ながら盗人の手引として皆塵堂にやってきた益治郎。太一郎の親友で熱血猫好きの脳筋魚屋・巳之助。祟りの家系に婿入りすることになりながら怪異を絶対信じない連助。そして円九郎――

 シリーズのレギュラーキャラである太一郎と巳之助だけでなく、これまで皆塵堂に流れ着き、そして巣立っていった面々に出会ってみれば、何とも懐かしい友達に出会ったような気分。シリーズ最終巻として、心憎いまでの趣向でありましょう。

 特に前々作の主人公でありつつも、前作では出番のなかった連助は、怪異を信じないというある意味反則的なキャラ付けに磨きがかかり、ビビリの円九郎とのコンビはもう絶品(しかも何やら珍妙な属性まで加わって……)
 それでいて、彼の気性が怪異を一転、ホロリとさせる場面もあって、今回一番の儲け役かもしれません。


 そんな楽しい本作ですが、その一方で、最後まで追いかけてきた夢の猫の正体がすっきりしないのは大きなマイナス点。先に触れたとおり、おきみの存在感が薄かったこともあって、その点には不満が残ります。

 いや、もちろん最大の不満は、これでシリーズ完結であること。こんなに恐ろしくも微笑ましく、シビアだけれども温かい世界がもう読めないとは!
 もちろん出会いがあれば別れあり、いつかは物語は終わらなければならないのですが……いつでも戻ってきていいのよ、というのは読者の側の言い草ではありませんが、それが正直な気持ちではあります。

(もっとも、これ以上猫が増えると、太一郎だけでなく読んでいるこちらも大変なことになりそうですが……)


『夢の猫 古道具屋皆塵堂』(輪渡颯介 講談社) Amazon
夢の猫 古道具屋 皆塵堂


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