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2016.07.11

『真田幸村と十勇士 ひみつの大冒険編』 「いろいろな角度から考える」ことの楽しみ

 「物語」の面白さを存分に味あわせてくれた奥山景布子の児童向け小説『真田幸村と十勇士』が帰ってきました。前作は十勇士の集結と、彼らが幸村の下で活躍し、やがて散っていく様を描いた、いわば「通史」でしたが、本作は彼ら一人一人の活躍を振り返る、「列伝」スタイルの一冊であります。

 前作ラストで、佐助ら幾人かの十勇士の生き残り、そして豊臣秀頼と大坂城を脱出し、薩摩に向かった幸村。
 本作は、彼ら生きていた幸村と十勇士の活躍を描く物語……ではなくて、彼らが薩摩に向かう船中で、十勇士一人一人の活躍を振り返るというスタイルで語られる、全九話(三好清海と三好伊佐の兄弟は二人で一話)から構成される連作集であります。

 信長供養の法会の前に、賤ヶ岳の七本槍と対決することとなった佐助たち七勇士の活躍。
 手のつけられない暴れ者だった三好兄弟が、僧となり、次いで幸村の家臣となるまでと、その壮烈な最期。
 海戦最強の九鬼水軍からも一目置かれていた根津甚八の幸村との出会いと意外な因縁。
 父の後妻により妹を、父を失い、父の秘伝を奪われた筧十蔵の女への敵討ち。
 幸村蟄居中に諸国を探るために旅立ち、御前試合の末に片倉小十郎の家臣となった由利鎌之助の迷い。
 幸村蟄居中に医者に弟子入りした穴山小助と、父を不幸な事件で失った少年との交流。
 加藤清正が遺した朝鮮伝来の秘密兵器の製法を巡り、望月六郎と仲間たちが挑む謎解き。
 浅井家の侍大将の遺児であった霧隠才蔵の生い立ちと、忍者となるまでの物語。
 仲間たちからは堅物と見られる海野六郎が、かつて出雲阿国と交わした想い。

 ……と、全九話、謎解きあり、ロマンスあり敵討ちありと、実に盛りだくさん。史実を背景にしているエピソードも少なくありませんが、そこから離れて物語を膨らませたものも多く、前作以上に自由闊達な空気を感じさせる内容となっています。
 そもそも本作のベースは「真田三代記」と立川文庫の真田もの、つまりは講談。その「物語」としてのプリミティブな楽しさを、本作は巧みに再構築してみせているのです。

 そしてその中には、作者ならではの味わいが、サラリと、ピリリと効かせてあるのも嬉しい。全九話構成ということで、一話一話の分量は短いのですが、その中で随所に「おっ」と唸らされる部分が隠されているのです。

 例えば由利鎌之助のエピソード、片倉家に潜入した自分の正体が小十郎に露見し、刃を向けられた鎌之助の胸中に過ぎった人物の顔は、主君たる幸村ともう一人誰であったか。
 例えば筧十蔵のエピソード、驚くべき正体を見せた妖女を見事に討った十蔵に対し、幸村が弔うよう申し付けた人物は誰であったか。

 シンプルな物語の中に差し挟まれたこれらの描写は、分量的にはごくわずかながら、それがあるだけで物語が、そこに登場する人物の想いがグッと深まることになります。
 この辺りのフックの効かせ方は見事の一言……これまで数多くの歴史小説を、史実の羅列に留まらぬ人の息吹を感じさせる作者ならではのものと言うほかありません。


 「真田信繁」の史実を踏まえつつも、あえてそこから離れ、「真田幸村」と十勇士の物語として、自由に空想を遊ばせてみせた前作。
 本作はそのスタイルを踏まえつつ、さらに物語の楽しさを――上で述べたように作者一流の描写でもって――追求してみせたという印象があります。

 そんな本作のスタンス……いや、史実と物語のスタンスについて、作者があとがきで語る部分を引用させていただきます。
「読書をしたり、何かを調べたり、つまり、知的好奇心を持って日々を送ることは、とても楽しいことです。そして、「歴史」も「物語」も、どちらもその楽しみには欠かせません。
 「面白い」と思ったお話の、どこはフィクションで、どこは史実として確かめられるのか、なぜ史実とちがうことがお話となったのか。作られたフィクションの背景には、どんな事情があるのか。
 一つのストーリー、一人の人物について、そんな「いろいろな角度から考える」読書は、みなさんのこれからを、きっととても豊かにすると思います。」

 色々な角度から考えることの楽しさ……! 私がこれまで様々な物語を、史実に魅力を感じ、追いかけてきた理由を、これほど的確に表現した言葉はありませんでした。
 そのような想いに貫かれた作品だからこそ、本作は子供だけでなく、私のような大人が読んでもなお、魅力的であり、かつ得るものがあると感じられるのです。

 物語と史実の楽しさだけでなく、その両者との接し方まで教えてくれる……このような本は、なかなかあるものではありません。


『真田幸村と十勇士 ひみつの大冒険編』(奥山景布子 集英社みらい文庫) Amazon
真田幸村と十勇士 ひみつの大冒険編 (集英社みらい文庫)


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