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2016.07.21

仁木英之『くるすの残光 最後の審判』 そして残った最後の希望、しかし……

 島原の乱を生き延び、天草四郎復活の日まで、彼から与えられた異能で戦う聖騎士たちを描く『くるすの残光』もついにこの第五作で結末を迎えることとなります。最大の敵たる天海を討った寅太郎たちの前に現れるのは、かの由井正雪。聖遺物の一つ・聖杯を持つ正雪は寅太郎たちに何を語るのか……

 四郎の遺した七つの聖遺物を巡り、南光坊天海率いる幕府の切支丹討伐部隊・閻羅衆と死闘を繰り広げてきた寅太郎たち聖騎士。
 切支丹のみならず、山の民や海の民、古き神々を奉じる人々を巻き込んで展開してきた戦いは、前作のラストで寅太郎たちが二人もの仲間という貴重な犠牲を払いながらも、天海とその右腕・佐橋市正を討ったことで、決着したかに見えたのですが……

 しかし聖遺物・十字架の復活の力を手にした佐橋をはじめとする閻羅衆と公儀甲賀者たちにより、次々と狩りたてられていく各地の切支丹たち。各地のまつろわぬ民たちも、幕府の圧政の前に誇りを捨て、戦う意思を失っていくのでした。
 そんな中、寅太郎たちに手を差し伸べたのが由井正雪。かつて萩で寅太郎たちと出会い、一目で正体を見抜いた彼もまた、聖遺物の一つ・聖杯を持つ者だったのであります。

 切支丹ではないものの、彼らを含めたこぼれ落ちる者をなくすべく戦うという正雪に対し、一度は完全に信じられずに距離をおいた寅太郎。しかし幕府の度重なる弾圧により追い詰められ、思わぬ形で正体が露見してしまった寅太郎は、ついに正雪を頼ることとなります。そして三代将軍家光の死期が迫る中、正雪の蜂起の時も近づくのですが――


 既に前作ラストで敵の首魁とも言うべき天海を討ち、果たしてどのように物語が続いていくのか……と思われた本シリーズですが、ここで登場するのが由井正雪というのは、シリーズの締めくくりに相応しい存在でしょう。
 言うまでもなく正雪は、幕府史上に残る謀反とも言うべき慶安の変の首謀者。幕府に対して一大勢力を集め、幕閣の心胆を寒からしめた点では、島原の乱の切支丹たちに通じるものがあると言えるかもしれません。

 その正雪を、本作は幕府の力による統治からこぼれ落ちる者を救わんとする理想と野望、そして不思議なカリスマと人間味を持つ者として描き出します。
 それはもちろん、これまで描かれてきた正雪像に通じるものではありますが、しかしこれまで一貫して、理不尽に追い詰められ、こぼれ落ちる者たちが反抗する姿を描いてきた本シリーズにおいて、寅太郎たちの最後の戦いの協力者として、まことに相応しい人物像と感じます。


 しかし……その正雪の存在や、意外なしかし納得の最後の決戦の舞台など、見るべき点は多かったものの、私としてはこの結末にすっきりしないものが残った、というのが正直なところではあります。

 確かに後世の歴史を考えれば、この展開しか、この結末しかあり得ないことは間違いありません。この時代においては異端者である寅太郎たちが駆り立てられ、そして近しい者たちにまで累が及ぶ様は、何とも重苦しくやり切れない印象が残りますが、しかしやむを得ないことでしょう。
(ただし、ある人物が寅太郎に戦う理由を与えるためだけに登場したかのような扱いだったのはどうにも……)

 しかし何とも釈然としないのは、寅太郎たち聖騎士が奉じてきた天草四郎の存在――そしてその想いが、ラストに至るまでに、存在感があるものとして、言い換えれば寅太郎たちの行動原理として、こちらに強く伝わってこなかったことであります。

 この点はシリーズの既刊を紹介した際にも触れてきたかと思いますが、弾圧の犠牲者とはいえ一種のテロリストである寅太郎たちが、我々読者に共感を抱かせる存在であるために、その行動原理である四郎の想いは、やはり明確にされるべきものであったと感じます。
 本作の、本シリーズの結末において寅太郎が選んだ道に至るまでに、彼がもう一度向き合うべきものとしても――

 その点があまりはっきりと見えなかったたために(実はそれも一種の仕掛けとも言えるのですが……)、ラストに描き出されたもう一つの希望の姿も、その尊さも、いささか薄れてしまったと感じるのです。

 第一作からずっと楽しませていただいたシリーズだけに、最後にこうしたことを申し上げるのはまことに心苦しいのですが――
 先に述べたように、この結末以外あり得ないだけに、そこに至る道をもっと飾っていただきたかった、というのが正直な気持ちなのです。


『くるすの残光 最後の審判』(仁木英之 祥伝社) Amazon
くるすの残光 最後の審判


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