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2016.07.12

小松エメル『鬼の福招き 一鬼夜行』 鬼と鬼との力が招いた希望

 鬼のような面で恐れられる古道具屋店主と、大妖怪を自称しながら見かけは可愛らしい鬼という凸凹コンビが活躍する明治妖怪人情譚『一鬼夜行』、待望の第二部スタートであります。ほんの少しだけ趣を変えて、しかしシリーズの魅力と根幹は全く変わることなく、新たな騒動が始まります。

 百鬼夜行からはぐれて地上に落ちてきた見かけは可愛い子供の猫又鬼・小春と、古道具屋「荻の屋」の店主で妖怪もビビる閻魔顔の青年・喜蔵。
 心ならずも共同生活を送り、様々な妖怪騒動に巻き込まれるうちに、強い絆を築いていった二人ですが、小春の宿敵・猫又の長者との死闘の末、小春は勝ちはしたものの、妖怪としての力をほとんど失うことに――

 という、実に気になる形で結末を迎えた第一部。その後、小春の過去編を経て、本作において第二部がスタートしたのですが……もちろん気になるのは、小春の去就です。
 見かけや普段の人懐っこさとは裏腹に、大妖怪としての自負を持つ小春。その小春にとって全てである妖怪としての力が失われてしまったら、彼はどうなってしまうのか……と。

 が、開幕早々、それが取り越し苦労であったことがわかります。明るく脳天気で図々しく、大飯食らいで怠け者……ここにいるのは、今までと変わらぬ小春なのですから。
 が、そんな小春に喜蔵は容赦なくツッコミを入れるのですが――売り言葉に買い言葉、小春が新しい稼業として「妖怪相談処」を(萩の屋の中に勝手に)開業したことにより、新たな事件に二人は巻き込まれるのです。

 次から次へと舞い込む妖怪騒動をなんとか解決していく二人に、新たに舞い込んだ意外な依頼。それは千束の鷲神社――酉の市で知られる由緒正しき神社の神様にまつわるとんでもない内容のものでした。
 さすがに二人が手を焼く中、喜蔵は一つの疑問を抱きます。それは――


 短編連作的に、次々持ち込まれる妖怪騒動に二人が挑んでいくという、シリーズ第一作を思わせるスタイルで展開する本作。しかしもちろん第一作と異なるのは、これまでの積み重ねがあることであります。
 小春と喜蔵、深雪に彦次に綾子、付喪神たちetc.……次から次へと萩の屋に現れる面々は、これまでの物語を振り返りつつ、小春と喜蔵が歩んできた道を、そしてその中で得てきたものたちのことを、教えてくれるのです。

 そして、そんな彼らが巻き込まれる事件もまた、これまでと全く異なる新たなものであると同時に、これまで物語で描かれてきたものと重なるものでもあります。
 それは「共に在るということ」「共に在りたいと願うこと」――一人ではなく、他者と一緒にいたいという想いなのです。

 それは、人間にとっては――いや人間だけでなく、妖怪や人ならざる者たちにとっても――ある意味本能的な想いでしょう。それがこれまで、人間と妖怪にまつわる様々な事件を起こしてきたことは、シリーズの読者であれば、よくご存知でしょう。
 今回の事件の根源にもそれが、それもこれまで以上に痛切な形で存在します。そしてその過去の物語は、それが我々の世界でも実際にあり得ることだけに、実に重くやるせなく、悲しく恐ろしいものとして胸に刺さります。

 ある意味それは、実に本シリーズらしいというか作者らしい内容かもしれません……しかし同時に本作は、本シリーズは、それでも世界に存在するのが悲しみだけではないと、出会いが生むのは別れだけではないと力強く語りかけます。

 思い通りに共に在ることができるわけでもない。残酷な別れに傷ついた心は歪み果てるかもしれない。それでも、それでも他者との出会いは、少しずつ世界を変え、それが幾重にも重なることにより、やがては善き奇蹟を起こす……かもしれない。
 それが決してゆめまぼろしでないことを、我々は小春と喜蔵の姿を通じて、これまでも何度も見てきました。

 そしてそんな積み重ねの先にある本作で描かれるのは、これまでで最高の幸福感溢れる結末。鬼の力をなくした妖怪と、鬼のような面の人間が、それぞれに出来ることを尽くした末に待つものは、その奇蹟が確かに存在することを、我々に教えてくれるのです。
 そしてもう一つ、たとえ力があろうがなかろうが、小春は小春。そして小春に力があろうがなかろうが、喜蔵は喜蔵なのだと……


 こうして第二部として最高のスタートを切った本作。今回からイラストを担当する漫画版の作画者・森川侑の画も見事にマッチして(漫画版とは一部異なるキャラデザインも楽しい)、この先の展開に待つものは、ただ希望と期待のみ、なのであります。


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(P[こ]3-9)一鬼夜行 鬼の福招き (ポプラ文庫ピュアフル)


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