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2016.07.03

田牧大和『彩は匂へど 其角と一蝶』 今語られる男たちの出会い

 ウマが合いそうな男がいると勧められ、深川の芭蕉庵に向かった絵師兼幇間の暁雲は、そこで琉球の装束姿の謎の女と出会う。折しも芭蕉庵では、琉球の芭蕉布に包まれた謎の投げ文が見つかり、犯人探しの真っ最中だった。芭蕉の一番弟子・其角と意気投合した暁雲は、二人で謎解きに乗り出すが……

 『酔ひもせず』で登場し、息のあった探偵ぶりを見せた暁雲(英一蝶)と其角(榎本其角)。この名コンビが帰ってきました。

 吉原の太夫連続行方不明事件を描いた前作は、物語の展開上、二人にとっては最後の事件となってしまったのですが、しかしこの一作で終わらせるにはあまりに惜しい……と思っていたのは私だけではなかったということでしょう。
 前作がいろは四十七文字の最後の一節を題名に冠していたのに対し、本作は最初の一節を冠しているというのも、心憎い趣向です。

 さて、前作で描かれたのが最後の事件であったのに対し、本作で描かれるのは最初の事件――暁雲と其角の出会いであります。
(内容的に、前作を先に読んでいた方がベストかとは思いますが、核心には触れていないため、本作からでもほとんど問題はないかと思います)

 吉原で幇間として明るく振る舞いながらも、過去のある事件がもとで心に深い屈託を抱える暁雲。そんな彼に対し、ある日顔なじみの太夫が教えたのは、深川の芭蕉庵にいるという、暁雲とウマが合いそうな男の存在でした。

 俳諧の世界に超新星の如く現れながら、すぐに江戸の中心を離れ、辺鄙ともいえる深川に篭ってしまった芭蕉庵の主――松尾芭蕉。
 その芭蕉と一門自体にも興味を覚えて深川に足を運んだ暁雲を待っていたのは、脅迫状とも呼べるような不穏な投げ文によって、喧々諤々となっていた一門と、その中心で人一倍(?)無神経な言葉で周囲の神経を逆なでする一人の男でした。

 その男こそが、暁雲が会おうとしていた其角――芭蕉からは一の弟子と呼ばれ、溢れんばかりの才を持ちながらも、何故か口から出る言葉の選択は拙いものばかり、という奇妙な人物。
 そして太夫の言葉どおり、たちまち意気投合した二人は、成り行きから事件の謎を追うことになるのでした。

 投げ文が琉球の芭蕉布で包まれていたこと、騒ぎの直前に、暁雲が芭蕉庵の庭で謎めいた琉球装束の女と出会っていたことから、琉球出身の女を追う二人。やがて二人は、両国の見世物小屋の女性芸人が、十年前に行方知れずとなった琉球の楽人を追って、江戸に出てきたことを知るのですが……


 ともに江戸の文化史に名前を残しながらも、本シリーズにおいては対象的な人物として描かれる暁雲と其角。
 豪放磊落のようでいて、鋭い観察眼と細やかな神経を持つ暁雲と、生真面目だが空気が読めず、そして奇談怪談が大好物の其角のキャラクターは、二作目にして既にお馴染みと言いたくなるようなハマりっぷりであります。

 しかし其角は年若い時分のせいか、その口の拙さがことあるごとに強調されているのがなんとも可笑しい。
 そして暁雲もまた、前作では固く心の底に秘め隠していた「ある女性」への想いがまだ透けて見える形で――そんなどこか欠けた部分を持った二人が、お互いを補うように友情を深めていく姿が、実に気持ち良いのです。

 しかし、この憂き世にあるのは、気持よく、心地よいものばかりではありません。本作で二人が挑む事件、解き明かす謎の先にあるものは、前作同様、この世の理不尽と悪意が結びついて生まれた、大きな悲しみなのですから。

 そしてその理不尽と悪意は、時と場所こそ違え、暁雲も味わい、憎んだもの。それに対する自分の無力を呪い、悔やんできた暁雲が、過去の自分自身を救うことになるかのように事件解決に挑む姿の切なさも、また本作の味わいであります。


 真犯人の見当がすぐについてしまうのは勿体ないように思いますが、しかしそこに至るまでのミステリ味も楽しく――特に、事件のきっかけとその解明に、俳諧という一種特異な決まり事の世界が有機的に結びついているのに感心――後半、ある人物の企みが明かされた場面では、アッと驚かされた本作。

 最後の事件と最初の事件という、いささかイレギュラーな形で発表された二人の事件簿。しかし二度あることは三度ある、ぜひ続々編も……と欲張りたくなってしまうのです。


『彩は匂へど 其角と一蝶』(田牧大和 光文社) Amazon
彩(いろ)は匂へど 其角(きかく)と一蝶(いっちょう)


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