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2016.07.06

柴田錬三郎『真田十勇士 一 運命の星が生れた』 幻の大伝奇ノベライズ復活!

 これまで何度も採り上げてきたとおり、今年は『真田丸』効果で真田ものの書籍が大豊作。そんな中で、思いもよらぬ作品が復活しました。1975年から77年までNHKで放送された人形劇『真田十勇士』――その人形劇の、原作者・柴田錬三郎によるノベライゼーションであります。

 『新八犬伝』に続き、辻村ジュサブローの人形で人気を博しながらも、現在数本分しか映像が残されていない『真田十勇士』。そのため、現在では映像としてはその全容を窺うべくもない幻の作品となっているのですが……
 しかし放送と並行して、全5巻(予告では全6巻だったため、未完と誤解されることもありますが、第5巻で完結)で刊行されたのが、このノベライゼーションであります。

 今回の文庫化は、その全5巻を全3巻に再編集したものとのこと。これまで本作は復刊されることなく、(映像だけでなく)こちらまで幻の作品となっていたところに、誠にありがたい復刊と言うほかありません。

 さて、柴錬で真田十勇士、猿飛佐助と言えば、ファンであれば真っ先に浮かぶのは連作シリーズ『柴錬立川文庫』でありましょう。人形劇『真田十勇士』(以下、「柴錬十勇士
」と呼びます)は、その映像化というわけではありませんが、柴錬立川文庫の基本設定を数多く使った作品であります。
 しかし柴錬十勇士の真骨頂は、柴錬立川文庫だけに留まらず、他の数多くの柴錬作品から、その題材を得ているのであります。

 ……と、その前に、この第1巻に登場する、十勇士のうち九人を紹介しておきましょう。

猿飛佐助…武田勝頼の遺児の伊賀忍者
霧隠才蔵(キリー・サイゾ)…山田長政が暹羅から送り込んだ英国人剣士
三好清海…石川五右衛門の遺児の美青年
高野小天狗…異国から来た忍者・からす党の当代の頭
由利鎌之助…元・宇喜多家の寡黙な鎖鎌使い
筧十蔵(劉十天)…二刀流と妖術を操る明国の少年
呉羽自然坊…豪快、力自慢の今弁慶
穴山小助…若狭に潜む風盗族の頭
為三…貧相な小男だが名うての盗賊

 通常の十勇士とは異なる顔ぶれも含まれておりますが、いやはやこれでもかと言わんばかりの伝奇色濃厚なメンバーであります。そいや、柴錬ファンであれば、えっ!? と思う人間が含まれているではありませんか。

 そう、十勇士の一人・高野小天狗の設定は、連作『忍者からす』の中心となる忍一族「鴉」から。そして穴山小助が属する風盗族は、『赤い影法師』の冒頭で服部半蔵と凄腕の忍「影」ら木曽谷一党に滅ぼされた一族から来ているのですから。

 それだけではありません。本作のヒロインの一人・夢影は、その名が示すとおり、その『赤い影法師』の母影に当たる人物ですし、由利鎌之助が佐助とともに探すのは、宇喜多の遺臣・黒井大膳亮が隠した大量の遺金とくれば、これは『木乃伊館』――
 いやはや、柴錬作品の夢のクロスオーバーというほかない内容ではありませんか!
(まあ、『忍者からす』も柴錬立川文庫の一編ではありますが)

 実際のところ、これだけのメンバー、これだけの題材が揃うと、ほとんど10ページに一度に衝撃の事実が飛び出すという展開で、相当に慌ただしいのですが、それはもう本作ならではの持ち味。
 どこを切っても伝奇100%、いや1000%と言いたくなるような、凄まじい作品なのであります。


 もっとも、今の目で見ると、いささか苦しい点も少なくないのは事実。元が全年齢向けの人形劇ということもあってか、柴錬作品特有のエッジの効いた設定や描写はかなりマイルドになっておりますし、また、妖術に頼った荒唐無稽な場面も少なくありません。
 この辺りは、普段の柴錬作品に慣れている方、期待している方にとっては、些か違和感を感じられる部分かもしれませんが……
(もっとも、そんな作品だからこそ、例えば夢影の初登場シーンなど、問答無用のケレン味に満ちていて実に良いのですが)

 しかし(「柴錬」抜きの)立川文庫がそうであったように、理屈抜きの野放図さがあるからこそ、生まれる楽しさが、魅力があります。そしてその楽しさは、発表から約40年経った今でも、変わるものではありますまい。
 残すところあと二巻、私ももう一度、この楽しさを、ただ無心に味わいたいと思います。


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