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2016.08.21

ほおのきソラ『戦国ヴァンプ』第1巻 時と世界を異にするパラノーマルロマンス

 戦国時代にタイムスリップするというのは、これは高確率で女子高生と決まっていますが、彼女と出会う戦国武将が織田信長であるのも、またかなりの高確率。本作もそんなタイムスリップ時代劇ではありますが――しかし、他の作品と異なるのは、その信長が吸血鬼であることなのです。

 ある日、幼なじみのはじめと日本史の勉強をしていたところに、不思議な声を聞いた平凡な女子高生・ひさき。その直後、何処とも知れぬ空間に落ち、何者かの手に捕まりかけた彼女は、そこに現れたもう一つ別の手を取るのでした。
 そして意識を取り戻した彼女の前に現れた手の持ち主は、永禄2年の京で権勢を誇る三好家の当主・長慶でありました。

 天下を取るために必要だというひさきを狙った最初の声――今川義元に仕える謎の尼僧からひさきを守るために横取りしたという長慶。しかし突然のことに混乱し、三好邸を飛び出した彼女は、京を訪れていた織田信長とそのお供の「猿」と「犬」に出会うことになります。
 後世の評判とは異なり、物静かでちょっと天然の気もある信長に、成り行きからついていったひさき。しかし信長を狙う謎の刺客との争いに巻き込まれた彼女を庇い、信長は瀕死の重傷を負ってしまうのでありました。

 長慶ならば信長を救うことができるかもしれないと助けを求めたひさき。しかしその願いに応えて長慶がが行ったのは、信長の血を吸うこと。そう、ヴァンパイアの始祖の力を持つ長慶により、信長もまた、ヴァンパイアに――


 冒頭に述べたとおり、女子高生タイムスリップものというか、女子高生が戦国武将と恋愛する作品というのは、決して少なくない作品数、一つのジャンルと言ってもよいようにも感じられます。

 住む世界や時代が異なる、一種の異邦人とのロマンスというものは、やはり人の心を惹きつけるものなのかもかもしれませんが――こうしたパラノーマルロマンスの王道(?)といえば吸血鬼もの。
 ならば、戦国武将+吸血鬼でロマンスを描いてみればどうか……? そのある意味ストレートな試みが、本作と言えます。

 実は信長を吸血鬼とした作品は――特にその後半生の言動から来るイメージかと思いますが――決して皆無ではありません。しかし本作はそこにロマンスを持ち込んだのが面白い。
 さらに信長が吸血鬼となった理由を、三好長慶によるものとしたのは、これはおそらくは本作が初めてに思いますが……信長と長慶を並べているのは、三好家による中央集権的な畿内支配の体制が、一種信長の先駆的なスタイルであった点によるものと思いますし、何よりも、その後没落しゆく名族という三好のイメージに吸血鬼の姿を重ねたのであれば、なかなかのセンスだと感じます。

 もっとも、本作においては、長慶は元長によって三好家に外から迎えられた者であり、元長の子である人間・千熊丸が、長慶の手で吸血鬼となって三好義興を名乗るという、親子関係がいささか錯綜しているのに混乱させられますが……


 さて、本作に登場し、ヒロインを取り巻く男性陣は、信長や長慶、義興だけではありません。信長の供回りとして秀吉(……本作では最初から秀吉)や利家が、京には足利義輝が、そして長慶の側近として松永長頼が登場するのですが、皆タイプの違ったイケメン揃いであります(そして月代を剃っているのはモブ侍のみという思い切ったビジュアル)。
 こういう表現はもいかがなものかとは思いますが、一瞬、乙女ゲームの漫画化であったかと思ったほどであります。

 それはさておき、面白いのは松永長頼の存在でしょう。兄・久秀の悪名に隠れて後世ではあまり目立ちませんが、長頼は武勇に優れ、元々は兄以上に長慶に信頼されていたという人物。本作ではいかにも執事然とした佇まいのクールなキャラとして描かれているのも理解できます。
 しかし、長頼がいるとすれば久秀は……? といえば、これがとんでもない形で登場することとなります。こればかりはここで述べるわけにはいきませんが、いやはや、久秀がこれであればこの先歴史はどうなってしまうのか、と唖然とするばかり。

 そしてもう一人、ひさきを執拗に狙う今川義元の下にいるある武将もまた、同様の形で登場することになるのですが……


 時と世界を異にする男性たちとのパラノーマルロマンス、と思いきや、歴史ものとしても意外な変化球を投げてきた本作。これは当分目が離せそうにありません。


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