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2016.08.28

皆川亮二『海王ダンテ』第1巻 二人の少年が織りなす海洋伝奇活劇

 これまで数々の伝奇アクションの傑作を発表してきた皆川亮二の新作は、18世紀を舞台とした海洋もの。謎の少年・ダンテが、一冊の本を手に世界に乗り出す、いかにも作者らしくそしてユニークな冒険活劇である本作は、伝奇ファンとしても見逃せない内容であります。

 1765年、北極点を目指す途中、氷の海に閉じ込められた大英帝国海軍シーホース号。その前にただ一人徒歩で現れた少年・ダンテは、当時の水準からは遠くかけ離れた高い知識を示し、シーホース号の人々を導きます。
 そして動き出した船の前に巨大な氷塊が現れた時、ダンテは彼の体の一部を触媒とし、強大な力を発揮する幻影を召喚すると、氷塊を一撃で粉砕してみせたのであります。

 コルシカ島で育った孤児・ダンテ。彼に自分の育ての親が残した本――この世界にあるものの全ての理を知るという「要素」という名の本と、この世界を構成する分子を意思の力で組み替え力に変える魔導器が、彼の力の源だったのです。

 そしてダンテを先頭に、北極点目指して上陸した一行の前に出現したのは、当時の――いや現代の科学力から見ても桁外れの四本の巨大な脚を持つ巨船。
 この歩行戦艦を生み出したのは、コルシカ島出身のダンテの幼なじみにして、ダンテと同様の本「構成」を持ち、あらゆるものを作り出す力を手にした少年・ナポリオ(!)だったのであります。

 ダンテとナポリオ――この二人の少年が追い求めるものこそは、北極点に眠るというもう一冊の本「生命」。重病の床にある二人の幼なじみの少女・エマを救うため、そして危険極まりない力を持つというこの本を封印するためあるいは手に入れるため、二人はそれぞれ旅を続けてきたのです。
 しかし第三の本を前に、フランス海軍と手を組んだナポリオの歩行戦艦と対決することとなったダンテとイギリス海軍。ほぼ徒手空拳でこの強敵に挑む彼らの運命は……


 というわけで、この第1巻で描かれるのはプロローグとも言うべき北極での冒険編。
 見渡す限り雪と氷のみという白い世界を舞台として物語を描くということ自体、一種の「冒険」という印象もありますが、この舞台でこそ使えるものを存分に活かして繰り広げられる戦い――単に人と人だけでなく、人と自然の戦いも含めて――は、この作者ならではの描写力とテンポの良さで大いに読ませてくれます。

 生意気だがどこか人のいい天才少年、頭が固いようでいてプロフェッショナリズムと侠気ある軍人たち、そして信用出来ない(ラスボス候補の)肉親……と、作者のファンであれば「これこれ」と言いたくなってしまうような要素も嬉しいところです。

 しかし本作の最大の魅力……というよりもこの巻で最も驚かされるポイントは、主人公たるダンテの「正体」でしょう。
 ダンテのライバルであるコルシカ島のナポリオが「彼」であることはすぐに予想がつきますが、しかしそうであるとすればダンテは――その「回答」が示される場面では、そう来たか! と興奮させられること請け合いであります。
(ヒロインの名前がエマ・ハートという時点で……わかったらそれはそれで物凄いと思いますが)

 史実からすると色々と食い違うところはあるのですが、それはそれ。この先が大いに楽しみな海洋冒険伝奇活劇の幕開けを喜びたいと思います。


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