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2016.08.22

梶川卓郎『信長のシェフ』第16巻 後継披露 信忠のシェフ!?

 強敵・武田家との一大決戦であった長篠の戦いを終え、まずは一息つけるかと思われたケン。しかし信長が織田家の当主を辞めて嫡男の信忠に家督を譲ると宣言し、ケンに信忠の料理人となることを宣言したことから、またもや一波瀾生じることとなります。

 自分自身幾つもの因縁があった武田勝頼との決戦を、自らの命を危険に晒しつつ乗り切ったケン。しかし、信長の命により「信忠のシェフ」を務めることになった彼には、なかなか安息の時は訪れません。そしてこの巻の前半では、その信忠による岩村城の包囲戦を巡る物語が描かれることとなります。

 この岩村城に籠もるのは武田家の重鎮・秋山信友ですが、いかに相手が猛将とはいえ、彼我の勢いの差は歴然。もはや援軍を待つしかない岩村城が落ちるのは時間の問題、しかもそこに信長の料理人であったケンが信忠付きとしてやってきたことで、浮足立つ信忠の家臣団ですが――もちろんこのまま何事もなく済むはずがありません。
 ついに勝頼自らが援軍として進発したにもかかわらず、降伏を申し出た信友。その真意は何か――家臣団が揺れる中、ケンは信忠に意見を求められることとなります。

 今回ほとんど初登場となった信忠ですが、ビジュアル的には眉がそっくりであるものの、その表情はあくまでも穏やかで落ち着いた若者といったところ。
 その印象通りと言うべきか、父のような飛び抜けた力は持たないものの、周囲の意見を聞き、公正な判断を下すことができる人物として描かれているのが興味深いところです。

 信忠については、その最期が印象に残るものの、その人物像自体は今ひとつ定説がないようですが、本作の信忠は、乱世よりも治世において力を発揮する人物として描かれており、それはこの巻の後半の展開にも大きな意味を持つことになるのですが――


 そしてその後半で描かれるのは、信忠の家督相続の宴席。現代の感覚からすれば、家督相続というのは、まあそれなりに儀式として意味はあれど、そこまでも重いものとは思えないかもしれません。
 しかし時は下克上の時代、親から子へ家督を譲ると宣言すれば、それだけでスムーズに相続できるわけでもありません。特に、信長のように己の力で道を切り開いてきた人物の後継ともなれば……

 後継者としての自分の披露の場であり、武士・公家・商人・僧侶等々、各界の一流の人物が集まる外交の戦場に臨むことになった信忠。しかしそこに思わぬ敵が出現することになります。
 それは信長の三男・信孝。その外見のみならず、志向能力もまた、信長に最も近いと言われる青年であります。

 この信孝、信忠どころでなく信長似というか、若いころの信長はこうであろうというビジュアルなのですが、外見はさておき、その行動力は確かに信長譲り。信忠に家督が譲られることに不満を持った彼は、この宴席をぶち壊しにすることで、信忠にその資格なしと衆人の前に示そうとするのであります。

 もっとも、その手段があまりにもアバウトなのは全く信長似ではありませんが、しかし勢いはあるだけに恐ろしい。ある意味合戦以上の危機に陥った信忠を救うことができるのは、もちろんケンなのであります。


 と、信忠と彼の家督相続を中心に描くこの巻は、比較的に地味に思えるかもしれません。が、そこで描かれるものは、上で述べたとおり、戦国の世にあっては決して軽んじることはできないものであります。
 その辺りをきっちりと描くことができるのは、これは「食」という、人が生きる限りあらゆる局面で必要となる行為を中心とする本作ならでは……と言うのは、決して牽強付会ではないでしょう。

 特にこの宴席騒動のその先に、信長の見据えるこの先の世界像と、そこに向けた宣戦布告とも言うべき一大宣言があるとすれば……

 この宣言を受けてにわかに動き出す諸勢力。その一番手となるのは本願寺のようですが、そこには彼女がいるわけで……
 まだまだ信長のシェフはお役御免になりそうにもありません。


 ちなみに岩村城攻めのエピローグ的に描かれるのは、秋山信友の最期。ケンと夏を一緒に甲斐にさらっていくなど、ケンと浅からぬ因縁を持つ人物を救うために、信長との最後の晩餐に臨む彼に、ケンがある料理を作ることになります。
 これもあまりに豪快な作戦でちょっと噴いてしまうのですが、ケンの信友への想いと、信友の男気が感じられるエピソードで、私は気に入っています。


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