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2016.08.08

ひかわきょうこ『お伽もよう綾にしき ふたたび』第6巻 彼が喪ったもの、得たもの

 室町時代を舞台に、強い霊力を持つ少女・鈴音と、修験者の青年・新九郎の冒険を描いてきた『お伽もよう綾にしき』の第2シリーズ、約一年半ぶりの新作であります。本作の中心は、二人に手を貸してきた強大なもののけ・おじゃる様。長きに渡り封印されていた彼の過去が明かされることになります。

 これまで幾度となく伊摩の国に迫る魔を退けてきた鈴音と新九郎。その中で長らく鈴音に手を貸してきたのは、彼女が新九郎から与えられた笛に封印されていたおじゃる様であります。
 長きに渡る封印から己の名を忘れ、公家姿であったことからそのように名付けられたおじゃる様ですが、やがて真の名が千儒王であったことが作中で語られました。

 しかし、本体は大狐のもののけである彼がなぜ公家の姿を取り、人間のような名を持っているのか。そして何よりも、何故笛に封印されていたのか……この巻に収められたエピソードでは、その謎がついに明かされることになります。


 今日も平和が続く伊摩の国。しかし周囲の国は戦乱の真っ只中、重臣の中に、おじゃる様の力を他国の情報収集に利用すべしと言い出す者が現れます。その重臣の背後にもののけの影を感じた新九郎は、その屋敷に偵察に行ったものの行方不明となってしまうのでした。

 一方、時を遡って平安時代、美しく開かれた都に近づいた大狐は、祖父と母を遺して亡くなった男の霊から、自分に代わって二人を慰めて欲しいと頼まれます。好奇心から男の姿を取った大狐は、二人の屋敷に現れ、共に暮らすようになるのですが……

 室町の伊摩の国に新たに迫る影の正体は何か。そして平安の都で大狐=千儒王=おじゃる様に何が起き、何故封印されるに至ったのか。
 この巻では、この室町と平安、二つの時代を並行して描くことで物語が展開していきます。少しずつ描かれる二つの物語が互いに影響し、後半で一つに集約されていく様は、まさにベテランの技と言うべきでしょう。


 しかしもちろん、その中で強く印象に残るのは、おじゃる様の想いの――姿も、でしょうか――変遷であり、彼が背負ってきた過去であります。

 平安の都に興味を抱きつつも、特段に人間に惹かれていたわけではないおじゃる様。その彼が気まぐれに叶えた願いから何を得たのか。そして何を喪ったのか。何に怒り、何に悲しんだのか……
 もう一人平安と室町を繋ぐ人物――平安時代におじゃる様を笛に封じた高僧・順慶の目を通じて描かれるそれは、その根底にあるものが、言ってみればごく普通の、我々が持つ「情」であるだけに、ストレートに胸に突き刺さるのです。

 そして作中でそれを受け止め、和らげ、癒してきたものが、鈴音たちの優しさ、暖かさであることは言うまでもありません。
 それは確かに――これまで本作で描かれてきたように――優しく甘いもの、「尻のかゆくなるような」ものかもしれません。しかしその尊さを、素晴らしさを、本作は弛まず真摯に描いてきたことを、我々は知っています。


 これまで語られてこなかった最後の謎とも言うべきものが語られた本作で、この先何が描かれるのかはわかりません。
 しかし本作で描かれる世界が、描かれるものが、この先いつまでも在って欲しい……この巻を読んで、改めて感じたところです。


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