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2016.08.04

深山くのえ『飛天の風 六男坊と陰陽師』 似た者同士の二人の冒険

 平安もので陰陽師とのバディものとくれば、ある意味鉄板ですが、本作は一風変わったキャラの組み合わせが印象的な作品であります。タイトルのとおり、主人公の一人は太政大臣の六男坊、名門の出とはいえ微妙な立場の青年が、同じ年頃の陰陽生と冒険を繰り広げることになります。

 太政大臣の六男坊・藤原有視は、母親の身分の低さから、二の兄からは使い走り同然の扱い。今日も表に出せぬ文を預けられての使いの途中、夜道で人を追っていた陰陽寮の学生・安倍春秋とぶつかってしまいます。
 何者かを追っていた春秋は相手を逃がしてしまい、口論となる二人ですが、その際に偶然都を騒がす盗賊団「密かの賊」が盗みに入った現場を目撃してしまうのでした。

 こうした成り行きから事件の捜査に巻き込まれてしまった有視。春秋も、賊が盗みを働く前に怪異――烏や犬の死骸が見つかっていたことから、陰陽寮の人間として、事件に関わることになります。

 そんな中、二の兄の屋敷の女房たちの中に、幼なじみの小色、今は玉篠と名乗る彼女と思わぬ形で再会した有視は、かつて惹かれていた彼女のことが気にかかって仕方ない毎日なのですが、しかし玉篠は不自然に彼を避けてばかりで――


 という本作は、内容的には比較的シンプル。有視と春秋の出会い、有視の玉篠への想いと、「密かの賊」追跡が交錯する物語は、しかし第1作ゆえの設定説明の部分もあってか、さまで入り組んだものではなく、静かに物語は展開していくことになります。
 が、本作においてはそれがむしろ似合っているように感じられます。

 というのも、本作の主人公・有視は、先に述べたとおり六男坊という何とも微妙な立場。二の兄にはこき使われ、彼の家の女房たちからも六郎と呼ばれて便利屋扱いされる有様であります。(この辺りの描写がリアルなのかはわかりませんが、しかしいかにもありそう……と思わされるところではあります)

 有視自身、しばらくは自分の父のことを知らずに平民の中で育ち、さほど遠くない頃に自分の出自を知らされて貴族の末席に迎えられたことから、貴族離れした性格と感性を持つ――つまりは、現代に生きる我々に近い中身を持つ――青年。
 そんな有視を主人公とする本作は、絢爛たる貴族文化を背景とした物語ではなく、むしろその陰で暮らしてきた人々に焦点を当てて展開していくことになります。

 そしてもう一人の主人公たる春秋もまた、その貴族文化の陰で背負ったきたキャラクターです。
 早くに両親を亡くし、周囲をたらい回しにされながら生きてきた春秋。ようやく陰陽寮に学生としての自分の居場所を見出したものの、しかしこれまで周囲に気を使って生きてきたために、まだ自分というものを出せずにいる青年なのです。

 本作の中心にあるのは、そんなある意味似たもの同士の二人が出会い、ぎこちなくも微笑ましく――特に、春秋が、有視の家の女房が作った菓子を初めて食べる場面が実にいい――友情を深めていく姿であり、本作の物語展開は、それと巧みに寄り添い、補っているように感じられます。
(尤も、賊の正体に関する謎がわかり易すぎたきらいはありますが……)

 そしてそれを象徴する存在が、サブタイトルの「飛天」であります。
 幼い頃から陰陽の術に特異な才能を示した春秋に、亡き母が遺した護符から生まれた式神――その名の通り、美しい天女の姿を持つその式神は、母と春秋の絆の証であると同時に、物語の中において、春秋から有視に託され、二人の絆の証ともなっていくのです。

 私は作者の作品は本作が初めてですが、これまで平安時代などを舞台にした恋愛ものを中心とした作品を発表してきた方の様子。
 あとがきで、陰陽師ものは苦手と書かれていますが、なるほど、陰陽師絡みの描写は抑えめではあるものの、この飛天の扱いをはじめ、作中の各所で見られる陰陽の術に関する描写は印象的で、これはむしろ作者の技というものでしょう。


 何はともあれ、恋愛よりも友情を中心としてスタートした本作。8月には続編も登場とのことで、気になるシリーズの誕生と言ったところであります。


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