柴田錬三郎『真田十勇士 二 烈風は凶雲を呼んだ』 対比される佐助と武蔵
真田イヤーとも言うべきこの年に復活した幻の『真田十勇士』、柴田錬三郎によるNHK人形劇原作のノベライゼーション全3巻中の第2巻であります。豊臣と徳川の間の緊張が高まる一触即発の状況の中、開戦を避けるべく、猿飛佐助をはじめとする九人の勇士は各地に飛ぶのですが――
武田勝頼の忘れ形見である猿飛佐助、その佐助に挑戦するために暹羅からやってきた英国人剣士の霧隠才蔵、石川五右衛門の遺児の美青年・三好清海……一人ひとりが様々な物語を背負い、超人的な技に秀でた勇士たち。
真田幸村の十の守り星を象徴する彼ら勇士は、第1巻において幸村の下に九人までが集まりました。この巻で描かれるのは、彼ら九勇士が、幸村の命の下、日本各地で縦横無尽に活躍する姿であります。
この第2巻の物語は、時期的には幸村が九度山に蟄居していた時代――すなわち、関ヶ原の戦から大坂の陣に至るまでの期間。この期間は、史実の上では幸村に動きはなく、そして徳川家と豊臣家の間も、平穏を保っていたように見えますが……もちろんそれは(本作においては)表面上のこと。
本書の前半で描かれるのは、秀頼を除き、豊臣家を滅ぼさんとして次々と仕掛けられる徳川家康の陰謀を迎え撃つ九勇士の活躍。
いやそれだけではなく、攻撃は最大の防御、とばかりに秀忠を呪詛する、江戸城天守に火をかける……歴史の表に出ない者たちならではの戦いを、勇士たちは仕掛けていくのであります。
さらに中盤では、幸村にそれぞれ個別の命を授けられた勇士たちが、日本各地に散って大活躍。豊臣の隠し軍資金集めや関ヶ原西軍の残党の糾合など、様々な冒険を繰り広げるところに、武蔵や小次郎、十兵衛といった剣士たちに後藤又兵衛、岩見重太郎ら豪傑たちといった有名人が絡んでくるのですから、これがつまらないはずがありません。
さらにそこに豊臣家滅亡の怨念を背負った怪人・亡霊道人や、死して後に吸血鬼と化した地獄百鬼(おや、改心したはずでは……と思いきや、終盤でとんでもない設定が発覚)などといった面々も登場し、これが伝奇だ! と言わんばかりの奇想天外の物語が展開するのですからたまらないものがあります。
……しかし、ここで印象に残るのは、主人公とも言うべき佐助の魂の遍歴とも言うべき展開であります。
忍者として天才的な才能を持ちながらも、その優しすぎる性格が災いし、どうしても無抵抗の者、弱き者を殺せぬ佐助(この辺り、『柴錬立川文庫』の佐助と微妙に異なるのも面白い)。忍者として、いや乱世に生きる武士としては致命的とも言うべき弱みを抱え、中盤において佐助は彷徨を続けることになります。
そしてその佐助と対置される存在が――なんと宮本武蔵というのが面白い。
幼い頃に父を殺され母を誤って殺し、その仇を師として育つという幼少期を送った武蔵。
剣の道を極めるためであれば、立ち塞がる何者をも切り伏せる剣鬼――尤も、決して理由もなく人を殺める殺人鬼ではないのですが――と化した彼は、これまでの物語の中で幾度か佐助と関わり、敵とも味方とも言えぬ不思議な距離感を以って登場してくることになります。
ともに壮絶な出生・過去を背負い、己の技を頼りに生きてきた佐助と武蔵。方や忍者として主君を仰ぎ、方や武芸者として孤剣を振るう――それだけでも対照的ですが、しかし真に異なるのは、先に述べた如く、佐助が己の技を振るうことに悩み続けるのに対し、武蔵が決して悩まない点であります。
その最たるものが、武蔵と吉岡一門の決闘――それも幼い又七郎を容赦なく斬った一乗寺下り松の決闘――なのですが、佐助と武蔵が共演する作品は決して少なくないものの、このような形で対比してみせたものは、珍しいのではないでしょうか。
さて、本書の後半では、大坂城の鯱の目玉を破壊するため、徳川方に雇われた外国商人の南蛮船に搭載された巨砲を巡って、一大血戦が展開。各地から集結しる勇士たちとその協力者、さらに宿敵たちが集結しての大決戦は、本作の中盤のクライマックスを飾るに相応しい、読み応えある内容であります。
そして――十勇士に欠けるところあと一人、最後の勇士たる真田大助(!)もついに登場、まだ幸村の下に参じてはいないものの、十勇士が全て揃う日も遠くはないでしょう。
尤もそれは、最後の戦いが近いことをも意味します。いよいよ迫る大坂の陣、そこで誰が勝ち、誰が生き残るのか――最後の最後まで、何が起こるかわからない作品です。
『真田十勇士 二 烈風は凶雲を呼んだ』(柴田錬三郎 集英社文庫) Amazon

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