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2016.08.09

伊藤ヒロ&峰守ひろかず『S20-2/戦後トウキョウ退魔録』 そのパロディの先に見えるもの

 昭和20年代、いまだ戦争の余燼が消えやらぬ東京で起きる様々な怪事件に、不死の体を持つ豪傑・茶楽呆吉郎と、機械の左腕を持つ美青年・襟之井刀次の二人が挑む連作活劇の第二弾であります。怪獣・怪人・妖魔・秘密兵器……次々と出現する奇怪な敵に、今日も二人は人知れず戦いを挑むことになります。

 東京は亀戸で売れない紙芝居職人を表の顔として暮らす呆吉郎と刀次。しかし二人の裏の顔にして真の使命は、巷を騒がす怪異を討ち、鎮めること。南方で受けた呪いから不死の体を持つ呆吉郎と、旧日本軍が霊力・科学力の粋を集めた四式特肢を装着した刀次は、怪異の記憶を奪う少女・摩姫とともに奔走してきたのです。

 かくて本作で展開されるのは、二人の作者が呆吉郎と刀次それぞれの視点から交互に描く六つの物語。二人の活躍(のうちから摩姫に消され切れずに残った記憶)が、後に語られる様々なフィクションの原型となったという設定だけに、描かれる内容も、知っていればニヤリとできるものばかりであります。

 突如海の深みから目覚め、深川沖で漁船を次々と沈める謎の怪物に、呆吉郎が恩人の娘らとともに対決する『海龍目覚める』
 白覆面にマント、手には拳銃のヒーロー「菩薩=銃」としてヤクザを襲撃する青年の暴走を止めるために刀次たちが奔走する『菩薩=銃』
 東京に施された謎の封印を解いて回るショウモン教団の陰謀に、呆吉郎たちが政府の忍者部隊とともに挑む『帝都地下陰陽物語』
 刀次たちが退治に向かった上野公園に出没する謎の獣の哀しい正体と、思わぬ形で現れた救いを描く『野に咲く花のように』
 旧日本軍が開発した空飛ぶ秘密兵器を、米国人パイロット・ハルとともに呆吉郎たちが追う『戻れ、目を逸らさせるものよ』
 同じ四式特肢を持ちながらも狂気に憑かれ帝銀事件を起こしたかつての親友と刀次が激突する『半神(あるいは帝銀事件)』

 この六話、比較的(あくまでも前作に比べて)実在の人物や事件に絡んだエピソードは控え目な印象もありますが、しかしそれでも本シリーズの最大の魅力である「あの事件の背後にこの人物(作品)が!」的な楽しさは今回も健在で、読んでいる間、ニヤニヤしたり驚かされたりの連続でありました。

 特に印象的なのは冒頭の二編。まず『海龍目覚める』に登場する海からやってくる恐竜めいた、しかし二本の大きな腕を持つ怪物――というのは、どう考えてもつい先日復活したアレですが(ご丁寧に名前の由来となった人物まで登場)、しかし本作における正体はなんと! というひねりが嬉しい。
 個人的にソレ系が大好きなこともあり(さらに一見唐突なオチも、わかる人には大爆笑)、大喜びの一作であります。

 また『菩薩=銃』は、ヒーローのモチーフはどうみてもあの元祖「正義の味方」なものの、しかしヒロポンに手を出してラリったコウチ青年が、おふくろさんの幻影を胸に、自分が悪と認定した相手相手に拳銃をぶっ放して回るというのは、危険球にもほどがある展開。モデルの目に入らなくてよかった……とほっとさせられる(?)作品であります。


 さて、このような面ばかり取り上げた後に恐縮ですが、しかし本作には、前作同様、ネタがネタとして、パロディの題材として未消化に感じられる点は存在します。
 確かに面白いパロディは大歓迎なのですが……しかし一目でそれとわかるネタが、そのままゴロンと出され、使われていくのには、いささか鼻白むものがあるのです。

 しかしその一方で、本作においては、その点を乗り越えた――ネタでは終わらないエピソードも数多く存在します。

 例えば上で取り上げた『菩薩=銃』は、これだけとんでもない物語を描きながらも、その根底にあるものは、誰の胸にもある正義への憧れと、そうした善き想いの前に立ち塞がる時代や社会の壁との相克であります。
 それはコウチ青年のみならず、刀次や呆吉郎にも、いや現代の我々たちも共通して感じ、悩むものであり……そこにあるのは、ネタから一歩踏み出し、それを通じてその先にある「何か」を描き出そうとする姿勢。その姿勢は、何よりも好もしく感じられます。


 この辺り、作者によって明らかに方向性が違う……というより呆吉郎サイドはネタの調理が強引過ぎる印象なのですが、これは二人の作者がいる時点で当然あり得べきことなのでしょう。

 呆吉郎と刀次――この二人が同じ想いを胸に同じ目的のために戦いながらも、あくまでも別々の人間であるように、本シリーズの物語も、それぞれが別々の角度から描かれた物語であると、そう考えるのが適切なのかもしれません。


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