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2016.09.13

松尾清貴『真田十勇士 1 忍術使い』(その一) 容赦なき勇士たちの過去

 真田イヤーに向け、昨年後半から数多く出版されてきた真田もの、十勇士もの。そんな中でもおそらくは最も独創的で、最も先鋭的な「真田十勇士」は、本作でしょう。猿飛佐助が、真田幸村が、霧隠才蔵が――お馴染みのキャラクターたちがここで繰り広げるのは、全く見たことないような物語なのですから。

 タイトルどおり真田十勇士を題材とした本作ですが、三章構成のこの巻で描かれるのは、それぞれ「戸沢白雲斎の下で修行する猿飛佐助」「小田原攻めでの初陣を前にした幸村」「京で石川五右衛門と対決する霧隠才蔵」。
 (特に一章と三章は)いずれも十勇士ものであればお馴染みのシチュエーションですが……しかし、そこで描かれるものは、これまでとは全く異なる世界なのであります。


 まず最初の章「猿飛佐助、妖術使いに囚われる」では、猿飛佐助の修行模様が描かれるのですが――しかしその修行が尋常ではありません。
 浅間山近くの村で暮らす、武士を夢見る少年・佐助。村が賊の襲撃を受け、さらに浅間山が噴火するという大混乱の中、家族たちを失い、白雲斎に拾われた佐助は、白雲斎に忍術を仕込まれることとなるのですが……さて、これを修行や稽古と呼んで良いものか。

 何しろ、この白雲斎、佐助を救い出したかと思えば放りだし、告げる言葉が「逃げねば殺す」の一言。単なる少年である佐助から見れば妖術使いのような白雲斎から逃げるはずもできず、傷を負わされる佐助ですが、しかし白雲斎は必要以上に佐助を傷つけることなく、また同じ言葉をかけるのです。

 病になれば看護されて体を癒やし、飢えることなく食事は与えられる。しかしそれでも休む暇もなく襲撃を受ける。死ぬことも許されぬまま、佐助曰く「頭のおかしい猫」にいたぶられる中、佐助は徐々に白雲斎に抗する力を身に着けていくのですが……

 徹底的に佐助の存在を否定し、(彼にとっては無意識のうちに)忍術を叩き込んでいく。佐助の個を、人間性を否定するかのようなこの修行の姿は、その容赦のなさと(尤も、読者の目からすると白雲斎の行動の中にある想いが見えてくるのですが……)、同時にこんな描き方があったかと、切り口の新しさに圧倒されるのであります。

 そして容赦がないといえば、三章「霧隠才蔵、京の都で天下の大泥棒と相見える」もまた凄まじい。ここで描かれるのは、講談などでもお馴染みの、才蔵と石川五右衛門との対決――伊賀の上忍・百地三太夫門下の兄弟弟子である二人の対決なのですが、しかし形の上では同じでも、才蔵の人物造形には驚かされるのです。

 天正伊賀の乱の混乱の最中、必死に自分を守ろうと胸に抱え込んだ――そしてそれはその場から逃げられなくなることを意味する――母の息の根を止め、逃れた才蔵。
 一切の気配を感じさせぬ謎の男・四方髪の丹波に救われ、三太夫と引き合わされた才蔵は、命じられるまま、追い忍として伊賀の掟を破る抜け忍を次々と殺してきたのです。伊賀が滅びぬために、己の父も含めて。

 そして抜け忍の一人である五右衛門と対峙した才蔵は、五右衛門と行動をともにする望月六郎、信濃を飛び出し都にやってきた佐助を含めた乱戦の中で、五右衛門と三太夫の、白雲斎と三太夫の因縁を知るのですが……

 十勇士ものにおいては、喜怒哀楽が豊かな佐助に対して、冷徹で非情な人物として描かれることが多い才蔵。本作においてもその構図は同様ですが――しかしその才蔵の冷徹ぶりを示す過去のハードさには驚かされます(申し遅れましたが、本作は対象年齢中学生以上向けの児童書であります)。

 ただあるべき伊賀の姿のみを追い求め、そのために言われるがままに人を殺す――佐助とは別の形で「自分」というものをなくした才蔵の姿と、そして結末で明かされるあまりに残酷な真実(……と言ってよいものか)には言葉を失うほかありません。


 いささか長くなりますので、次回に続きます。


『真田十勇士 1 忍術使い』(松尾清貴 理論社) Amazon
真田十勇士〈1〉忍術使い

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