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2016.09.11

木原敏江『白妖の娘』第1巻 私は私、の妖狐伝

 赴任先の信濃国で、癖っ毛でおてんばだが美しい娘・十鴇と出会った下級官人の葛城直。とある事件がきっかけで親しくなった二人だが、十鴇の父と姉が都の貴族の横暴で命を落としてしまう。生きる気力を失った十鴇のため、直は禁足地の森で先祖と因縁を持つ「お塚様」の封印を解いてしまう……

 ベテラン少女漫画家・木原敏江の最新作である本作の題材は、あの玉藻の前……金毛九尾の狐に憑かれた娘にまつわる物語。しかしここで描かれるものは、いま描かれるに相応しくアップデートされた物語であります。

 本作のヒロイン・十鴇は、信濃国の田舎官吏の娘。父と美しい姉とともに暮らす彼女の悩みは、その髪が大変な癖っ毛であったことでありました(言うまでもなくこの時代、長く真っ直ぐな髪は美人の条件の一つであります)。
 そんな彼女の前に現れたのは、先祖の故郷でありかつて育ったこの国に赴任してきた青年官吏の葛城直。髪のことで絡まれていた十鴇を直が助け、彼女の髪を水にたなびく藻のように美しいと評したことから、十鴇と直の間は急速に縮まっていくことになります。

 コンプレックスから解放され、持ち前の明るさと美しさを取り戻した十鴇ですが、しかしほどなくして彼女の家を悲劇が襲います。都の貴族からの熱烈な求愛に応えて都に行った彼女の姉が、貴族に捨てられて首を吊り、父も悲憤のあまりに倒れ、亡くなってしまったのです。
 瞬く間に家族を失い、自らも生きる気力を失った十鴇。そんな彼女を救うため、直は自分の家に伝わる伝説を思い出します。

 はるか昔、狩人に追われていた白狐を助けた直の先祖。しかしその白狐こそは異国を騒がせた末に日本に現れた大妖であったことを知った彼は、相打ち同然に妖狐をこの地に封じ、禁足地としたのであります。
 その妖狐――「お塚様」が眠る地に向かい、その封印を解いた二人。そして現れたお塚様に対し、十鴇はその身を差し出す代わりに、この国の一番上に立つ者の后となり、貴族たちの社会に復讐することを望むのでした。

 かくてお塚様こと白妖と都に出て、その美貌で貴族たちに少しずつ食い込んでいく十鴇と、彼女のためとはいえ白妖を解き放ったことを悔やみ、修行の末に陰陽頭・安倍泰親の弟子となった直と――二人の物語が始まるのです。


 封印されていた妖狐に憑かれた少女と、彼女を慕う陰陽師の青年――この構図を見た時にまず思い浮かんだのは、岡本綺堂『玉藻の前』でした。
 能や御伽草子、読本などで古くから知られる金毛白面九尾の狐・玉藻前の物語に、平安末期の時代性と、何より美しくも儚い悲恋譚としての性格を与えたこの作品は、以降の作品に様々な影響を与えてきました。

 本作もその影響下にあることは間違いないと思いますが――しかし、そこから大きく踏み出した独自性を持っているのです。
 その際たるものが、二人の――特に十鴇の――意思の有無でしょう。本作において、十鴇は復活した妖狐に襲われてその身を奪われた哀れな犠牲者として存在するのではありません。上で述べたように、二人は自分たちの意思で以て妖狐を復活させ、そして十鴇は自ら望んで妖狐と一体となったのですから。

 もちろんそこに至るまでには、決して二人の責任ではない、この時代の、この社会が生んだ、理不尽と言うほかない運命の存在があります。
 それでも、二人はその運命に逆らうために選び取った……それは、この玉藻の前の物語を現代に描く、大きな意味付けでしょう。

 そして十鴇は、自分についた白妖に対して、こう言い放ちます。「なにがあっても私は私!」であると――これこそは本作を象徴する台詞と言ってよいのではないでしょうか。


 しかしもちろん、白妖の力は強大であり、この先どこまで十鴇の意思が保たれるのかはわかりません(この辺り、お塚様による十鴇への淑女教育の描写など、ベテランならではの緩急つけた展開の面白さがうまく煙幕になっているのに感心)。白妖と接する中で、彼女の純粋さがいつまで保たれるのかも。
 そして、一度はお塚様の復活に手を貸しながらも、それを悔い、修行の末に陰陽師に弟子入りすることとなった直と十鴇が再会した時に何が起こるかもまた――

 この巻の後半に登場する都側の登場人物たちのキャラクターも面白く、この先物語がどこまで広がっていくのか、そして二人の想いは妖狐に打ち克つことができるのか……期待は尽きない作品であります。


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