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2016.09.15

『エド魔女奇譚』第1回-第5回 異国の魔女、徳川家を惑わす

 蘭方医・宮部牽牛を頼って長崎から江戸に出た男装の少女・紅丸は、若い侍・星野藤馬と出会う。尾張藩主・吉通の死に不審があり、牽牛の話を聞きに行くという藤馬。折しも江戸では若い娘の失血死が連続、紅丸と藤馬、牽牛、そして藤馬の主の尾張通春は、一連の事件の背後に潜む魔女の存在を知る……

 NHK-FMのラジオドラマ枠「青春アドベンチャー」は、荒山徹の『魔岩伝説』をドラマ化するなど、以前からユニークな作品チョイスで大いに気になっておりました。
 そして今回放送されるのは、なんとオリジナルの伝奇時代劇。とりあえず全10回のうち、前半の5回までを聴きましたが、なかなか丁寧に作られた作品という印象があります。

 時は七代将軍家継の治世である正徳3年、男装の少女・紅丸が、生まれ育った長崎を飛び出し、江戸を訪れた場面から物語は始まります。オランダ人と遊女の間に生まれた紅丸は、自分の境遇とこの先待つ未来を嫌い、母の馴染みであったという蘭方医・宮部牽牛を頼ってやってきたのです。

 その牽牛、実は先に若くして亡くなった尾張藩主・吉通と交流があったのですが、生前の吉通に不思議な話を聞かされていました。かつて吉通の前に不思議な異国の少女が現れ、彼を将軍位につけてやると誘うも、吉通はこれを撥ね除けたというのであります。
 さらに牽牛は、顔なじみの町方同心の依頼(というより自身の学問的興味)で町で見つかった変死体を検死した際に、死体から血液が失われていることを知ることになります。

 一見無関係に見える二つの事件。しかし吉通の前に現れた少女こそは、名も無きものの僕たるテッサリアの巫女――古代ギリシャのヘカテー女神を崇める魔女であり、その力の源は、若い娘の大量の血だったのであります。
 その魔女は謎を追う紅丸たちの前にも出現。さらに、既に死んだはずの男が彼女たちを襲います。そして紅丸たちは、魔女が紀州の吉宗の周囲にも出没していることを知り、吉宗に迫るのですが……


 タイトル通り江戸に密かに「魔女」が入り込んでいたとしたら……という本作。しかしその魔女の力の源が、ヘカテー女神というのには、オッと思わされます。

 ヘカテーとは元々は古代ギリシアの力ある女神だったものが、やがて夜や魔術、妖魔といった存在の支配者となった存在。夜に十字路や三叉路に現れる三つの体を持つ女神として、中世以降、魔術・魔女術を信奉する人々に崇拝されることになります。
 これまで時代もので黒魔術を道具立てにした作品は幾つかありますが、それらが転び伴天連らによるものであったのに対して、本作の独自性が感じられるというものでしょう。

 そしてその魔女が絡むことになるのは、第八代将軍位を巡る争い。最終的にこの位に就くのが誰であるかは言うまでもありませんが、ここに至るまでに、尾張、そして紀州で徳川家の人間が幾人も亡くなっているのは史実であります。(特に吉宗の場合、その都合の良さにしばしばフィクションでは疑いの目を向けられるほど)。

 そして主人公サイドにいるのが、その吉宗とは後年ライバル関係にあったと言える尾張藩主・徳川宗春の若き日の姿というのも面白い(ちなみに藤馬も実在の人物)。なるほど、この人物であれば、紅丸のような娘にも気さくに接し、市井に混じって怪事件に挑む――その一方で、徳川家の人間として魔女のターゲットともなる――のも違和感はありません。


 この前半部分は、題材のわりには比較的おちついた展開が続くのですが、これは後半に向けての助走と考えればよいでしょうか。
 正直なところ、まだまだこの先の展開はわかりませんが、しかし注目すべきは、紅丸の存在でしょう。

 歴史上の人物や超自然の魔女が登場する本作においては、一歩間違えればキャラが食われかねない紅丸。しかし第5回において、魔女が紅丸に語りかけた言葉が印象に残ります。
 西洋人と日本人の間に生まれながらどちらの側にも属さず、そして女であることを捨て、しかし男にもなれない紅丸。二つの世界の狭間にあって、どこにも属せぬ存在である点において、紅丸は魔女に等しく、そして共にテッサリアの巫女になるに相応しいと。

 通春や藤馬が史実を、そして武士を象徴するキャラクターだとすれば、紅丸は虚構を、庶民を象徴するキャラクターでしょう。
 その両者の間に滑り込んできた魔女に対し、彼女が、彼女の周囲の人間たちがどのように立ち向かうのか。そして両者の間にあるものは埋まるのか――

 後半戦で何が描かれるのか、そして何よりも物語の果てで紅丸を待つものは何か、楽しみにしているところであります。


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