琥狗ハヤテ『ねこまた。』第3巻 もう一人のねこまた憑き登場!?
京で、「ささめ(つぶやき)の親分」と呼ばれる岡っ引きの仁兵衛と、彼に取り憑いた不思議な存在「ねこまた」の交流を、美しい京の風物や四季と絡めて描く四コマシリーズの最新巻であります。今回は何と仁兵衛とは異なるねこまた憑きが……?
本作に登場する「ねこまた」とは、耳が尖っていて尻尾が二つに分かれているものの、猫が変化した「猫又」にあらず、正体不明の何とも不思議な存在。
「家」一軒に一匹ずつ憑いてはその家を守る、可愛らしい(のですが目が虚無的でちょっと怖くもある)一種の精霊のような存在なのです。
そんな常人には見えないねこまたたちを、幼い頃から見ることができる仁兵衛は、家ではなく彼自身に取り憑いた一匹、家に取り憑いた四匹の、都合五匹に取り巻かれ、それなりに賑やかな一人暮らし。
唯一の悩みは、自分に憑いているねこまたと会話している姿が、独り言を呟いているようにしか見えないことですが……
何はともあれ、そんな仁兵衛とねこまたたちの交流を描いてきた本作も、早いものでもう3巻目。ある意味日常系の漫画(?)であるため、基本的に大きな物語展開や変化は生じない作品なのですが、もちろん、それがむしろいい。
不気味可愛いねこまたたちと、ちょっと強面だが心優しい仁兵衛の、静かで、暖かい日常は、実に微笑ましく、心地よく感じられるのです。
……が、この巻において、そんな世界にもある変化が生じることとなります。ある日、京に現れた旅姿の浪人。笠で顔を隠し、剣呑な雰囲気を持つその男・三好高久の動きに、岡っ引きとして仁兵衛は目を光らせることになります。
社会的な身分で目をつけられるのもいやなものですが、しかしここは仁兵衛の目が正しく、実はこの男の稼業は金でお尋ね者を斬る賞金稼ぎ。剣呑なのも道理、本作には珍しく血の匂いを漂わせる男なのであります。
しかし、注目すべきはそこ(だけ)ではありません。実はこの男が肌身離さぬ笠、その上にはねこまたが常に乗っているのですから。そう、この男もまた、ねこまた――それも仁兵衛の黒ねこまたと対になるような、白ねこまた――を連れる者だったのです。
と言っても仁兵衛と異なるのは、彼にはねこまたを見ることができず(したがってねこまたが憑いていることも知らず)、そしてねこまたが憑いているのも彼自身ではなく、彼の笠なのですが……
いささか事情は異なるにせよ、本作では初めて登場した仁兵衛以外のねこまた憑き。彼の出自は、彼がそんな稼業についているのは何故か、そして何よりも何故彼にねこまたが憑いたのか……本書の時点では何もわかりませんが、大いに気をそそるところではあります。
しかし、そのねこまたが何故笠に憑いているかは語られています。それは、無宿人にとっては笠が軒(屋根)であるから――なるほど、これはこれで理に適っていると同時に、何とも切なさを感じさせる設定ではありませんか。
そしてもう一つ、この点で気になる物語が、この巻には収録されています。それは仁兵衛の家に憑いたねこまたのうち一番幼い一匹、水玉模様のねこまたが、仁兵衛の家に来るまでの物語。
その物語の内容は読んでのお楽しみですが、そこでは、また全く似て非なる形で、笠が用いられているのです。
あるいは白ねこまたと対になるのは、水玉ねこまたの方では、というのはさすがに考えすぎですが、しかしここで描かれたものに、三好とねこまたの関係性を探る――そしてそれは同時に、三好の過去を探るものでもあるでしょう――ことは可能なように思います。
ここに来て新たな、謎めいた形のねこまたと人の関係性を提示してみせた本作。いつもどおりの変わらぬ物語と、新たな変化の物語と……両方を楽しみするという、少々欲張りな気分になってしまいますが、それも無理もない話でしょう。
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