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2016.09.28

吉川うたた『鳥啼き魚の目は泪 おくのほそみち秘録』第6巻 そして旅は終わり、旅は続く

 この世ならざる者を見る目を持つ自由奔放な芭蕉と、そんな師匠に手を焼く堅物の曾良が珍道中を繰り広げてきた吉川うたた版「おくのほそ道」の旅もついにこの巻で完結。旅の終わりに、そしてその先に何が待つのか……堂々の大団円であります。

 みちのくへの歌枕を求める旅も折り返し地点を過ぎ、越後を過ぎた二人。この巻での旅は、金沢から始まります。

 そして金沢から福井、敦賀を経て大垣に向かう旅路となるのですが――途中の山中温泉で、なんと曾良が芭蕉とひとまずの別れを告げることとなります。
 「おくのほそ道」によれば、腹を病んでいたことが理由ですが、本作ではそこにアレンジを加え、これまでの物語で描かれてきたある要素を盛り込んでいるのがらしいところでしょうか。そして、彼の代わりとなる同行者への非常に細かい気遣いもまた……

 しかし、弟子というより無二の相棒とも言うべき曾良と別れても、芭蕉の旅が続くのは、これは史実どおりとはいえ少々、いえ実に寂しい。その事実自体が、二人の旅の終わりを象徴するようにも感じられるところであります。
 もちろん、これで芭蕉と曾良が永遠の別れとなったわけではありません。「おくのほそ道」の旅のゴールとなったのは大垣。そこで再び芭蕉の元に曾良は現れるのですが……


 さて、上でゴールと述べましたが、別に芭蕉が華々しくゴールテープを切ったわけでも、特別なイベントがあったわけでもありません。あくまでも一つの通過点として、すぐに芭蕉は伊勢神宮に向かい、その後も伊賀上野や京を訪れているのですから(曾良は再び離別)。

 その意味では、この旅の終わりを漫画化するのは相当に難しいものがあるのではないか……とも思っていたのですが、本作はその辺りを、その後の「おくのほそ道」成立に至るまでの道のりを含めて描くことで、巧みに物語として成立させていると感じます。

 「おくのほそ道」の旅自体は元禄2年(1689)の出来事ですが、芭蕉がその推敲を終えたのはその5年後の元禄7年。そしてそれは、芭蕉が没した年でもあります(さらに言えば、「おくのほそ道」が刊行されたのは実にそれから8年後の元禄15年)。
 曾良はその後、宝永7年(1710)まで生きたのですが、いずれにせよ、この巻で芭蕉が口にする「「おくのほそ道」を書き上げたら 北へ行こうな もっと北へ」という言葉は、生前果たされなかったことになります。

 そして主人公二人が去り、物語は終わった、かに見えたのですが――


 しかし、我々がこの物語を通じて目の当たりにしてきたことは、人の想いは、その想いを抱いた者の死によって消え去るわけではないということであります。

 本作においては、それを芭蕉が行く先々で死者のヴィジョンを見ることで、ある種象徴的に表現してきました。
 いや、超自然的なことではなくとも、その土地土地に残された旧跡に、そして本作的には、何よりもそこで詠まれた歌の中に、我々は往時を偲び、そこに生きた人々の姿を感じることができるのです。

 だとすれば、「おくのほそ道」を旅した芭蕉と曾良の姿も……

 「おくのほそ道」に魅力を感じ、本作がそうであるようにそれを語る人々がいる限り、芭蕉も曾良もそこにいる。どこかで旅を続けている――
 それは本作を詠んできた我々にとって、何よりも嬉しく、感動的な「事実」ではありませんか。


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