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2016.09.25

『エド魔女奇譚』第6回-第10回 二つの世界の間で彼女が選んだもの

 オンエアから一週間遅れの今ごろで大変恐縮ですが、NHK-FMの「青春アドベンチャー」で放送されたオリジナル時代伝奇ドラマ『エド魔女奇譚』の後半5回の紹介であります。八代将軍を巡る動きに絡んで暗躍する異国の魔女と、その秘密を知った人々との戦いの行方は……

 時は正徳三年、突然の死を遂げた尾張第四代藩主・徳川吉通が、生前、謎の異国の少女から将軍位に誘われたことを知った吉通の弟・通春とその腹心・星野藤馬、蘭学医・宮部牽牛と長崎から来た混血男装の少女・紅丸。
 その少女の謎を追ううちに、彼らは少女が次に紀州の徳川吉宗に魔手を伸ばしていたことを掴みます。

 その異国の少女こそは、若い少女の生き血を力の源として長き年月を生き続け、死人や動物を操るなど奇怪な力を持つ魔女。将軍位に野心を持つ吉宗はその魔女を受け入れ、その力を借りようとしていたのであります。
 その一方、日本人でもオランダ人でもなく、男でも女でもない紅丸に対して、魔女は自分とともに異教の巫女となれと誘ってくるのですが……


 というこれまでの展開を受けての後半では、魔女を裏切りその口を塞ぐべく抹殺に走る吉宗一派の動きと、新たに通春に魔手を伸ばす魔女の動きが、尾張5代藩主・五郎太の早逝という史実と絡めて描かれることになります。

 その一方、自らの力の源として少女たちの生き血を集める魔女の次のターゲットとなったのは、牽牛の助手であり、紅丸の友達でもある少女・なつ。攫われたなつを追う紅丸たちと魔女、そして吉宗の手勢との、船上での三つ巴の戦いが、本作のクライマックスとなるのであります。

 このクライマックスは、魔女により乗組員が皆殺しにされ、下僕とされた幽霊船上というシチュエーションの妙といい、非日常的な妖魔と戦うのが、紀州藩の武士というある意味日常的な存在という対比の面白さといい、伝奇時代劇ファンとしてはなかなか楽しめる展開。
 音だけという制限ゆえ、迫力という点ではどうしても他のメディアには一歩譲らざるを得ないラジオドラマの短所を、上手く補っていたかと思います。

 また、将としての気風はあるもののそのために他者の犠牲を顧みない吉宗と、いまだ若いながらも人の情を重んじる通春の関係も、後世の二人を感じさせるものがあって面白い。
 特に、死んだ家臣を打ち捨てていこうとする吉宗と、たった一人の家臣の藤馬の身を案じる通春という対比などは、物語の根幹に通じるものを感じさせました。


 そう、本作の物語の背景としてあるもの――それは、人と人との結びつきでしょう。

 一国の長の座を左右しかねない強大な魔力を持ち、他人の生き血をすすって生きながらも、同胞もないままたった一人生き続ける魔女。あるいは、将軍という権力の座を求め、そのために部下の命を擲って省みない吉宗。

 望むと望まざるとに関わらず一人で生きる彼女たちの姿は、藤馬との結びつきを何よりも重んじる通春、あるいは自らの想いを隠して愛した女の心を救うために奔走した牽牛ら、他人のために自らの力を尽くす者たちと対比する形となっていたと感じます。

 そしてその両サイドの間に立つ者が、本作の主人公・紅丸でありました。上で述べたように、二つの国の間に生まれ、女としての自分を厭って男装に身をやつす紅丸。その姿は、魔女が自らの仲間に誘ったように、「そちら側」に近いとも言えるものでもあります。

 しかし、彼女は決して望まれずに生まれた存在ではなかった、彼女は生まれた時から周囲の愛に包まれていた――それが彼女を「こちら側」に留まらせ、本作のクライマックスにおける選択に繋がったと言えるでしょう。

 もっとも、この辺りの構図が今ひとつ見えにくかった……というよりも、その選択の姿にあまりカタルシスが感じられなかったため、物語としては少々地味な結末に見えてしまった、というのも正直な印象ではあるのですが……
(もちろん、全てを描ききらないことで、未来に向けて開いた物語としたことは理解できます)


 しかし、いささかなりとも勿体ない部分はあったとはいえ、このような形で新たな伝奇時代劇が生まれたのは、何よりも嬉しいことであります。
 この「青春アドベンチャー」は今までも挑戦的な作品を取り上げてきた番組枠でしたが、これからもこのような冒険が続いて欲しいと、心から願う次第です。


関連サイト
 公式サイト

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