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2016.09.09

せがわまさき『十 忍法魔界転生』第8巻・第9巻 陰の主役、お品の表情

 故あって間が空いてしまいましたが、せがわまさき版『魔界転生』の第8巻・第9巻をまとめてご紹介。これまで田宮坊太郎、宝蔵院胤舜と二人の魔界転生衆を破ってきた十兵衛の前に現れる次なる刺客は柳生如雲斎――ついに禁断の同門対決が実現することとなるのですが……

 紀州大納言の背後で暗躍する七人の妖剣士たちを討ち、三人娘の父・祖父たちの仇を討つために旅立った柳生十兵衛と柳生十人衆。
 西国三十三番札所を辿るその旅路の途中、十兵衛を討ち、そして仲間に引き入れんとする魔界転生衆との戦いは、その度ごとに十人衆に犠牲者を出しながらも続き、まずは二人までをも討ち果たすことができました。

 その一方で十兵衛と紀州側で繰り広げられる虚々実々の駆け引きもあり、十兵衛が一旦一行から外れた中、三人娘と十人衆が辿り着いたのは道成寺。言うまでもなく安珍清姫の伝説の残るあの道成寺であります。
 そこで根来衆に包囲された一行の前に颯爽と現れ、バッタバッタと根来衆を倒す十兵衛先生ですが……その前に現れた影こそは第三の刺客・柳生如雲斎。見開きで十兵衛の背後に出現するその場面の妖気溢れる姿は、この作者ならではの一流のビジュアルでもって大いに痺れさせられます。

 さてその柳生如雲斎、かつての名である柳生兵庫助利厳のほうがお馴染みの方も多いと思いますが、言うまでもなく彼は柳生新陰流にその人ありと知られた名剣士。
 その逸話は様々にありますが、流祖・石舟斎から新陰流の正統を許されたのが、石舟斎の子である宗矩ではなく彼であったというだけで、その腕のほどは察することができましょう。

 この如雲斎――柳生新陰流の同門であり叔父甥の間柄の相手に対し、十兵衛はやむなく刃を向けることとなります。
 同門といえば、同じ技を学んだ間柄であり、その同門同士が対決すれば、勝負は一瞬となるか、あるいは千日手となるかのどちらかですが、今回の対決は前者

 お互い一つずつ、十兵衛はないものを喪い、如雲斎はあるものを喪い……押される形となった如雲斎は、お雛を捕らえて思いがけぬ、しかしいかにも山風らしい趣向でこの場から一時撤退をしてのけることになります。

 お雛という人質を取られ、身動きの取れぬ状況ながら、西国二番札所・紀三井寺で、柳生道場の出張所を開くという挑発行動に出る十兵衛一行。
 その一方で、家光重篤の報に魔界転生衆の制止も聞かず紀州大納言は江戸へ出ることを決めるなど、相変わらず事態は錯綜に錯綜を重ねることとなります。

 ここで頼宣出立の血祭りというべきか、事もあろうに和歌山城に十兵衛をおびき寄せ、頼宣の眼前で立ち会おうという如雲斎。そしてその使者として選ばれたのはお品なのですが――ここで十兵衛の前に現れた、いや姿を見せずに彼に語りかけるお品の姿が、なんとも印象に残ります。

 忍法魔界転生の忍体として、十兵衛を堕落させるべく近づいたお品。しかしその旅の最中に十兵衛や十人衆と触れる中、彼女の中に変化が生じていくこととなります。
 その彼女が、十兵衛を必殺の罠に招き寄せる際に何を思うか……ここで描かれる彼女の微妙な表情は、その複雑な胸中を見事に浮かび上がらせていると感じます。

 思えばこの第8巻と第9巻、表向き中心となるのは二度にわたって十兵衛と激突する如雲斎ですが、その実、陰の主役というべきはお品ではないでしょうか。
 主たる任務は果たせなかったものの、無事に仲間たちのもとに帰還したお品。しかしその後も彼女は陰になり日向になり十兵衛に接近し、様々な役割を果たしていくことになります。……十兵衛のために。

 そしてその決定的な役割が、第9巻において描かれるのですが――

 スパイに入った者が、接近した相手にほだされ、逆スパイとなる……という趣向は古今東西枚挙に暇がありません。
 その定番のパターンでありながらも、お品の姿に不思議な魅力を感じるのは、不安・思慕・哀しみ・覚悟……様々な想いが無言のうちに浮かぶ、その表情を切り取ってみせる作者の描写力あってこそでしょう。

 そのお品がいかなる運命を辿るのか、何とも気になるところで終わる第9巻ですが――この先お品がどのような表情を浮かべるのか、次なる転生衆と十兵衛の対決と同じくらいに気になるのであります。


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