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2016.09.26

平谷美樹『貸し物屋お庸 娘店主、想いを秘める』 お庸の成長と彼らの正体と

 猫招き文庫の創刊からの人気シリーズである『貸し物屋お庸』シリーズも早いもので第4弾。江戸有数の貸し物屋・湊屋の両国出店を預かって活躍するお庸ですが、今回はタイトルから察せられるように、彼女に意外な(?)変化が……

 押し込みに両親を殺され、仇討ちのために力を借りた代わりに、湊屋の若き主人・清五郎の下で働くことになった少女・お庸。働くと言っても、本店でではなく、両国の出店(支店)を任されたお庸は、清五郎に付けられた手代の松之助とともに、次から次へと入ってくる依頼に応えるため、東奔西走する……というのが本シリーズの基本設定であります。

 家業が大工のためか、幼い頃からのべらんめえ口調が抜けず、今では一種の名物になっているお庸。そんな男勝りの彼女の弱点は清五郎――ちょっと得体の知れないところはあるものの、男っぷりのいい清五郎の前に出ると、普段の威勢の良さはどこへやら、借りてきた猫のようになってしまうお庸なのです。
 本作の第1話「萱草の簪」では、お庸がそんな自分の想いに気付くことになります。……今まで気付いてなかったのか!? と妙なところで驚かされたのはさておくとしましょう。

 ある日お庸の出店にやってきた美女・葛葉。芸者である彼女は季節外れの萱草のかんざしを借りに来たのですが、どうやら清五郎とは訳ありの様子……これまで不思議に周囲に女っ気のなかった清五郎ですが、思わぬライバル(?)の出現に、お庸は自分の中の想いと正面から向き合うことになります。

 読者の側としても、何となくこれまでずっとこのまま続くのではないかと思っていたお庸と清五郎の関係。それが今回、大きく揺らぐことになります。
 女性主人公だから恋愛話があって当然、などというありがちな物語では本作はありませんが、しかし逆にそれが全く描かれないのも不自然と思うべきでしょう。それが、お庸にとってはいずれ避けることのできない、一種の通過儀礼とも言うべきものであればなおさら――

 自分自身の想いに気付いた時、彼女は清五郎とどう接するのか、そして何よりも、葛葉からの依頼にどう対応するのか。もちろん、ここでお庸が仕事をないがしろにするはずもないのですが……
 しかしそれでもやっぱり本調子ではない彼女を助ける周囲の人々の存在も含めて、切なくも温かく、同時に彼女の成長ぶりが感じられるエピソードなのです。


 その他、これまでの巻同様、今回もバラエティに富んだエピソードが収録された本作。
 お庸の亡き(!)姉・おりょうとともに、彷徨う魂たちのためにお庸が意外なものを貸す「六文銭の夜」
 やはりおりょうがきっかけで、生臭霊能坊主・瑞雲が人形集めに奔走する羽目になる「人形」
 素行の悪さで周囲を困らせるさる大名の嫡男のしつけ役として、お庸が大名家に乗り込むことになる「初雪」

 いずれも意外な切り口で、しかし本作らしい内容の物語ですが、少々驚かされるのは、松之助の過去が語られる「秋時雨の矢立」であります。

 これまで、商売には不慣れかつ直情径行のお庸を陰ながら支えてきたしっかり者の松之助。一見、いかにも利け者の、しかしどこにでもいう御店者に見える彼ですが……しかし彼もまた、主人をはじめ皆どこか謎めいている湊屋の男、思いも寄らぬ過去があることが判明するのであります。

 その過去が何であるかは読んでのお楽しみですが、面白いのはこのエピソードが松之助を中心にフィーチャーしつつも、あくまでもお庸の物語でもあるところ。
 無茶ではあるし、知らぬうちに周囲に支えられているけれども、しかし関わった人間の心を暖めるお庸の明るい個性が、松之助の物語の背後にも、確実に存在しているのです。

 そして、松之助の過去を知ると、これまで以上に清五郎の存在が謎めいて感じられるのですが、あるいは彼は……


 さて、清五郎の正体も気になりますが、前作の読者にとってさらに気になるのは、お庸を密かに監視しているらしい陸奥国神坂家の存在。本作ではあまり表だった動きを見せなかった彼らですが、おそらくは近々大きな動きを見せることでしょう。

 お庸の成長ともども、こちらも気になるところですが……それが明らかになる時は、おそらくシリーズのクライマックスでしょう。その時が来るのが楽しみなような、残念ようなような、そんな気分であります。


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