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2016.09.30

霜島けい『ぬり壁のむすめ 九十九字ふしぎ屋商い中』 おかしな父娘の心の絆

 のっぺらぼうが江戸の町方同心を務めるという『のっぺら』でこちらの度肝を抜き、かつ大いに楽しませてくれた霜島ケイ(本作では「霜島けい」名義)、久々の新作であります。もちろんこちらもとんでもないアイディアの作品、なにしろタイトルの通り……

 早くに母を亡くし、左官の父と二人で暮らしてきたものの、ある日ぽっくりと父が亡くなってしまい、天涯孤独となってしまった少女・るい。
 真っ直ぐで明るい気性を持ちながらも、生まれつきこの世ならざるものを視る力を持つ彼女は、それがもとで(そしてもう一つ、より大きな理由から)奉公先をしくじり続け、途方に暮れる日々を送っておりました。

 そんなある日、何の気なしに入り込んだ路地で彼女が見つけたのは、「働き手求む」の貼り紙。それは、この世のものならざる曰く付きの品と出来事を扱っているという九十九字屋のものでした。
 背に腹は代えられないと店を訪れた彼女を待っていたのは、イケメンだけれども偏屈で態度の大きな主・冬吾。彼は、るいを雇うのにある条件を付けるのですが、それは……


 というあらすじを見ると、もしかすると何やら既視感があるかもしれません。真っ直ぐで明るいヒロイン、イケメンだけど奇人の店主、ちょっと変わった店に持ち込まれる事件――そう、近頃ライト文芸レーベルで大部分を占めている、あのパターンであります。

 しかし本作がそれらの作品と決定的に異なるのは、舞台を時代ものに移し替えた点だけではありません。一言で言えば、るいの場合「パパがぬり壁になっちゃった」のです!

 ……あ、わからないですね。実はるいの父親はぬりかべ――ゲゲゲの鬼太郎に出てくるあの壁の妖怪とは少々スタイルは違いますが、土壁の中に自在に出入りできる妖怪なのであります。
 もっとも、るいは妖怪と人間の間に生まれたというわけではありません。るいの父も生前は人間だったのですが、亡くなったと思ったら、生前の仕事が左官だった故か(?)ぬりかべになってしまっていたのです……いや、なってしまったのだから仕方ありません。

 かくてぬりかべになった父は、るいについて回っては面倒事を起こし、彼女が奉公先を追われる理由を作っていたのであります。
 そんな父を抱えたるいにとって、ある意味お仲間ともいえる(?)九十九字屋への奉公は渡りに船で――


 というわけで、妖怪時代小説数ある中でも屈指の個性的な設定を持つ本作は、全2話で構成されております。

 九十九字屋に雇われる条件として、自分に着いてきてしまった土左衛門を成仏させるべくるいが奔走する第1話。
 晴れて九十九字屋に奉公することとなったるいが、「その音がすると店に凶事が起こる」という鷽笛に秘められた謎を冬吾とともに追う第2話――どちらも人情怪異譚とも言うべき内容となっています。

 正直なところ、描かれる事件自体は比較的シンプルなのですが(特に第2話は、怪異の真相自体は予想がつきやすい)、本作は、ベテランらしい緩急付けた文章・構成と、何よりも九十九字屋の三人のやり取りが抜群に楽しい。
 やや直情径行だけれども心優しいるい、嫌味で自己中に見えるけれども実はツンデレ気質の冬吾、そして妖怪になってもバリバリの江戸っ子な親父と……そんな誰と誰が絡んでも楽しいトリオ(特に冬吾と親父の異次元っぷりがいい)のやりとりを見るだけでも、本作を読む価値はあるといえます。

 もっとも、本作で描かれるのは、楽しいことばかりではありません。
 本作の2つの事件の背後にあるのは、いずれも人の心の薄暗い部分――真っ黒ではないにせよ、時に人を傷つけ、害する負の部分であり、それが引き起こした事件は、真相が明かされてもなお、哀しくやるせないものを残すのですから。

 しかしそれでも、それだけではない、と思わせてくれるのは、たとえ始終口喧嘩していても、いや幽明界を異にするどころか、種族(?)まで異にしてしまっても、強い心の絆に結ばれたるいと親父の存在があるからにほかなりません。

 人間は天使ではないかもしれない。しかし悪魔でもない――いや、妖怪になっちゃうかもしれませんが、とにかく、この世も哀しいこと、悪いことばかりじゃないということを教えてくれる本作は、どこまでも暖かく魅力的です。
 そしてもちろん、そんな物語の続きにも期待している次第です。


『ぬり壁のむすめ 九十九字ふしぎ屋商い中』(霜島けい 光文社文庫) Amazon
ぬり壁のむすめ: 九十九字ふしぎ屋 商い中 (光文社時代小説文庫)


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