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2016.09.04

『Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀』 第9話「剣の神髄」

 鬼鳥の正体が大盗賊・凜雪鴉であり、全ては天刑劍を奪うための謀であることを知った殤不患と丹翡。捲殘雲も尊敬する狩雲霄の真の姿にショックを受ける。一方、凜雪鴉は天刑劍の鍔を偽造し、蔑天骸に取引を持ちかけていた。そこに現れた殺無生は、己の剣に賭ける信念のために蔑天骸に刃を向ける……

 鬼鳥=凜雪鴉が、掠風竊塵すなわち「風を掠め塵を窃む」盗賊であることを知らされた牢の中の殤不患と丹翡。ということは、その凜雪鴉に声をかけられた刑亥と狩雲霄もまた、世間知らずの小娘を騙して天刑劍を奪うという企みに乗った同類ということであります。(ということは死んだ廉耆もまた……)。これは確かに、正体のわからない殤不患のことを、異常に狩雲霄が気にしたわけです。
 この辺り、武侠ものだから……というこちらの「侠」への固定観念を見事にひっくり返してみせた面白い仕掛けです。

 そしてこの企みを知らなかったのは、殤不患と丹翡、そして捲殘雲。特に捲殘雲は、狩雲霄を大侠と信じ、兄貴と慕ってきただけに大きなショックを受けております。しかし狩雲霄に言わせれば清濁併せ呑むのが英雄。生きて誇らしげにする者には必ず秘めた恥がある、手際よく恥を隠したものだけが武林に名を残すことが出来る……と一見正しいけれどもやっぱり駄目な大人全開の発言であります。
 そして恥を隠すというのが、今回の場合何を指すかは明確ですが――

 そんな一行が立ち去った後、あまりに世間を知らなかった自分自身を恥じ、殤不患を巻き込んだことを詫びる丹翡。その時、静かに内功を練っていた殤不患は、その黄金に輝く巨大な気の力で以って、素手で堅固な牢を粉砕! そして丹翡にかけた言葉が素晴らしい。
「騙されることを悔やんでもいいが、正しくあろうとしたことは悔やむんじゃない」
 ……これもまた大人の言葉ではありますが、しかしどちらの大人が望ましいか、そして何よりも格好いいか! 言うまでもありません。

 さて、その頃諸悪の根源二人は腹の探り合い。前回、丹翡から奪った天刑劍の鍔に不審を抱くような描写があった蔑天骸ですが、やはり鍔は偽物。十秒見れば贋作が、五秒触れればさらに素晴らしい贋作が作れるというのが凜雪鴉の特技だったのです。それでは本物の鍔はといえば……もちろんここに持ってくるはずがない。何とかして蔑天骸が持つ柄を奪うのかと思いきや、モノがモノだけに、本物の鍔を蔑天骸に売りつけた方がいいかも、というのが凜雪鴉のスタンスであります。

 しかし既に強大な力を持つ蔑天骸が、何故剣を、それも天刑劍を求めるのかと問う凜雪鴉に対して、この世で剣こそは力の証、生と死を分かつものの象徴であり、それゆえ最強の剣を求めると語る蔑天骸。
 そして逆に何故それだけの能力を持ちながら盗みに拘るのか、と問われた凜雪鴉の「覇者の気風」という答えも、禅問答のようで、あるいは蔑天骸の答えと通じるものがあるように感じますが……

 と、そこにほかの面子は置き去りに、単身殴りこんできたのは殺無生。もちろん凜雪鴉のに首を取り立てにやってきたのであります。闇の迷宮を突破したら首をやると言ったが、自分は結局迷宮を通らなかったし? と(予想通りの)言い訳をする凜雪鴉ですが、もちろん殺無生が聞くわけもありません。
 七罪塔の奥はどん詰まり、これより先に逃げようはないという殺無生には、なるほどこれを狙っていたのかと感心させられますが、しかし彼の刃が向けられたのは蔑天骸。強者と見れば斬りたくなる殺無生にとって、蔑天骸こそはそれに敵う強者、そして蔑天骸も、己の信奉する剣の体現者ともいうべき殺無生の挑戦を拒むいわれはありません。

 そして対峙する両者ですが、しかし二人の達人の目には、既に決着は、その道筋まで見えていました。わずか九手、それだけで決着――九手で詰むのは自分だとわかりつつも、歓喜の表情で剣を抜き、その通りに蔑天骸の刃に胸を貫かれた殺無生。「決して勝てぬと悟った以上は、実際に負けてみなければ気がすまぬ……」愚かと言わば言え、これもまた一つの見事な生き方でしょう。
 そんな殺無生に最大限の敬意を果たしつつも、自分の剣が無双である以上、武林で名を上げる必要はない、と蔑天骸も自分の道との違いを断言するのでした。

 そして与えられた部屋に戻り、手に入れた殤不患の刃を改める凜雪鴉。その刃はなまくら同然、そしてその持ち主である殤不患が、彼の後ろに立って……次回に続きます。


 ストーリーは佳境に入りましたが、それ以上に印象に残るのは、登場人物それぞれの生き様、人生哲学の発露(特にようやく蔑天骸のキャラが立った印象)。というよりそれこそが、本作という物語の中核なのでしょう。
 一体誰が正しいのか、などという問いかけは無意味かもしれませんが、しかし物語の結末には、それが見えるのではないでしょうか。


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