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2016.10.16

重野なおき『信長の忍び』第10巻 浅井家滅亡、小谷城に舞う千鳥

 いよいよアニメも放送開始となった『信長の忍び』、単行本の方も久々に新刊が登場であります。二桁の大台に乗ったこの巻で描かれるのは浅井長政との決着戦ですが、しかしそれは単なる信長の宿敵の滅亡に終わるものではありません。そう、長政には信長の最愛の妹・市が嫁いでいるのですから……

 前巻において、北陸の双璧であった浅井・朝倉のうち、朝倉家をついに滅ぼした織田軍。勢いに乗って浅井家の本拠である小谷城に迫る織田軍ですが、この城は難攻不落、接近するだけでも困難極まりない城であります。
 この小谷城攻略を任せられたのが秀吉であり、そして彼に協力するのが信長の忍びたる千鳥なのですが……果たして彼らはこの城を抜くことができるのか、そしてお市を連れ帰ることができるのか?


 というわけでこの巻のかなりの部分を割いて描かれるのはこの小谷城攻略戦。先に申し上げれば、その結末については史実通りであり、そこからいささかも変わるところはありません。
 しかしそこに至るまでの過程は、まさしく本作流とも言うべき展開。秀吉が、半兵衛が、小六が……秀吉サイドがオールスターで活躍する中、彼らとは、そしてお市とも縁深い千鳥は決死の活躍を見せることになります。

 浅井方でも浅井井規が織田方に寝返り、城への手引きを買って出たものの、しかし小谷城が攻めるに難い城であることは変わりありません(しかも井規の真の目的は……)。
 しかも小谷城は守りの堅さに加え、鉄砲隊を幾重にも配置して徹底抗戦の構え。それを突き崩すために、千鳥は文字通り必死の戦いを挑むことになります。

 そして幾多の犠牲を払った末に最期の刻を迎えた長政。政略結婚とはいえ強い愛で結びつけられ、三人の子を成したお市は、長政とともに命を絶つことを望みます。
 ここでほとんどギャグ抜きで描かれる二人の絆は、ある意味定番とはいえ実に切なく、かつ甘く熱いのですが……しかしたとえ残酷とはいえ、彼女が生き延びることを望む者は少なくありません。

 信長が、秀吉が、そして長政が、お市が生きることを望む中、ここでも千鳥がお市にある言葉をかけるのですが――これが、なるほどこうきたか! と唸らされるほかない見事な説得。
 自らの命など惜しまず、愛する人と運命を共にすることを望む女性が、何故この先も生きることを決意したのか……千鳥ならでは、つまりは本作ならではの説得力であります。
(しかしその直後に、そんな彼女の言葉でも動かせない非常な「現実」が強く突き刺さるのですが……)


 と、大いにこの巻も読まされてしまうのですが、その一方でいささか気になってしまったのは、千鳥のあまりの活躍ぶりです。

 もちろん彼女が本作の主人公であり、そして信長の天下布武の一種象徴として描かれる以上、彼女が活躍することは、ある意味当然であります。
 その点は仕方ないのですが……しかし、お市の説得はともかくとして、その前の小谷城攻略戦でここまで活躍させる必要があったかどうか。

 お市説得は、ここまで手を血で汚し、そして自らも血を流した彼女だからこその言葉があることは十分承知の上で、しかしそれでも彼女が前面に出過ぎたことに、いささか違和感を感じたところです。

 もっともこの辺りは、信長の戦いが局地的なものから、大局的なものとなっていく過程で生じる印象ではあるでしょう。
 しかし(厳しい言い方をすれば)作者の他の歴史四コマにおいて、千鳥のような存在がなくとも物語を展開していることを思えば、その扱いが難しくなっているという面もなきにもあらずではないか……そう感じます。

 もっとも、この後に展開される助三vs杉谷善住坊という異次元マッチは、まさしく本作ならではのものであって、この辺りに対する一つの回答なのかな、と思わなくもありませんが……


 何はともあれ、包囲網が突き崩され、また一歩天下に近づいた信長。しかしその前にはまだ本願寺が、そして武田勝頼が待ち受けます。
 そこで千鳥が何を見て、何を感じ、何を為すのか……この先も色々な意味で気になるところであります。


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