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2016.10.09

松尾清貴『真田十勇士 2 淀城の怪』 伝奇活劇の果ての人間性回復

 その容赦のないキャラクター描写と、独創的な「天下」観で大いに驚かせてくれた松尾清貴の理論社版『真田十勇士』の第2巻であります。戸沢白雲斎の下を逃れ、真田家に身を寄せることとなった猿飛佐助の初任務。それは、淀城に潜むという謎の声の正体を探ることだったのですが……

 豊臣秀吉の北条討伐の前後から始まったこの物語ですが、その第2巻は、その秀吉がこよなく愛した茶々の奇妙な経験から幕を開けることとなります。
 天下人秀吉の子を身ごもり、出産を淀城で待っていた茶々。その彼女の寝所に現れた姿なき声の持ち主は、彼女は天下人の子を生むのではなく、理想の世界を造る本当の天下人を生むのだと語りかけてきたのですが……

 出産前の特異な心理状態が生み出した幻覚とも思われたその声ですが、しかしその子――鶴松が幼くして病に倒れた時、茶々の脳裏に浮かんだのはその声の存在。あるいは鶴松の病は、その声の主の仕業ではないか?
 周囲に相手にされぬその言葉を受け止めた彼女の弟――すなわち、生きていた浅井長政の男子(!)――である根津甚八からの情報を踏まえ、幸村は淀城探索の命を下します。

 そしてその任に当たることとなったのは、真田家に仕える異能の美少女・海野六郎こと加賀と、あてどもなく彷徨う中で彼女らに捕らえられ、行きがかり上、真田家に仕えることとなった佐助。
 冷然とした態度を崩さない加賀と忍びとしては感情過多ともいえる佐助と、水と油の、しかし実は白雲斎の姉弟弟子である二人は、主なき淀城に潜入するのですが――


 茶々が淀殿と呼ばれたのは何故か。それは鶴松を懐妊した彼女が、秀吉から淀城を与えられ、そこで鶴松を生んだから……というのは、よく知られた事実であります。
 では、茶々の前の主は誰であったか――それはあの明智光秀、本能寺の変の後に彼が淀城を修復し、一度はここに依ったことは、あまり知られていないのではないでしょうか。

 そして本作はその意外な繋がりを踏まえて、さらに奇想天外な物語を紡ぎ上げることになります。
 加賀の陽動を受け、かつて茶々が使っていた部屋――すなわち、彼女が謎の声を聞いた部屋に忍び込んだ佐助。一見何の変哲もない、何の仕掛けもない部屋で彼を待っていたのは、姿なき謎の「敵」でありました。

 彼ほどの術者をしてその存在を一切察知させずに一方的に襲いかかる敵は何者なのか。その術の正体は何か。その敵こそが声の主なのか、だとすればそれは何のためのものであったのか。そして何故、淀城なのか――

 クライマックスで明かされるその謎の答えはあまりに意外、このような術が許されるのか……! と大いに驚かされるとともに、伝奇ファンとしてはよくぞやってくれた! と大いに興奮させられた次第です。


 しかし本作の真のクライマックスはその先にあります。といっても物語の性質上、その内容だけはここで決して述べることはできないのですが……その先にあるものを述べることは許していただきましょう。
 それは佐助の人間性の回復――かつて白雲斎の下で忍術を叩き込まれた際に否定尽くされた、彼の人間としての生の肯定なのです。

 賊の襲来と噴火という二つの災いにより家族を失い、天涯孤独の身となった佐助。その彼を拾った白雲斎は、しかし彼の人間性を徹底的に殺し、敵として立ちはだかることで、彼を忍びとして育て上げました。
 その結果どうなったか――己の技を磨き、白雲斎の下から逃れるという目的こそ果たしたものの、その後の彼は己というものを持たず、ただ漫然とその日暮らしのまま、放浪を続けていたのです。

 しかし、淀城での任務の果てに彼が知ったある事実が、彼を人間として――己の生を生き、希望を持って己の未来へ向かう者として、彼を再生させるのです。
 その事実が何であるか、ここで書けないのが歯がゆい限りではあります。しかし物語の開幕からここに至るまでの物語、一見人間性の回復といったものと無縁の伝奇活劇の中で描かれてきたものがそこに収斂していくのは――それまでの非情な物語との大きな温度差もあって――熱い感動をもたらしてくれると申し上げるほかありません。


 そしてこの巻で描かれる人間再生は、一人佐助のみではありません。根津甚八も、望月六郎も、そして海野六郎も、皆、冒険の中で己が己であること、己が一個の人間であることを取り戻していくのですから。
 希有な伝奇活劇と熱い人間ドラマと、その両方を備えた、見事と言うほかない作品であります。


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淀城の怪 (真田十勇士)


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