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2016.10.20

木下昌輝『戦国24時 さいごの刻』(その二) 不変の史実から生まれる新たな物語

 戦国に名を残した人物が最期を迎えるまでの24時間を描く短編集の紹介、後半であります。後半は山本勘助、足利義輝、徳川家康と錚々たる顔ぶれが並ぶことになります。

『山本勘助の正体』
 第四話は、武田家にその人ありと知られた「武田信玄の家臣、山本勘助戦死までの24時間」を描く物語ですが――しかしこれが本書でも随一の曲者。何しろタイトルにあるとおり、勘助は正体不明の人物なのですから。

 川中島での謙信との決戦を目前に控えた頃、武田家が妻の実家である今川家を討つのを止めるため、その中心人物である勘助を討たんとする武田義信。しかし彼にとって最大の問題はその勘助が正体不明であること――
 本作における勘助とは、戦など大事の前にどこからか現れて的確な策と血まみれの手ぬぐいを託して消える謎の存在なのです。

 その正体を探った末、ついに武田家の家臣・山本菅助か、信玄の弟・典廐信繁のどちらかだと絞り込んだ義信。義信は、またもや勘助からもたらされた秘策・啄木鳥戦法により武田軍が上杉軍に決戦を挑む中、「勘助の正体」を討つ決意を固めるのですが……

 確かに川中島で戦死したと伝えられるものの、勘助は今に至るまで正体不明、非実在説もあるほどの人物。その人物の最期を、本作は勘助の正体と絡めて描き出します。
 しかしその意外な正体が明かされただけでは、物語はそれで終わりません。そこで現れるのは、恐るべき「生命力」を以て立ち上がる勘助の姿なのです。

 その種明かしはある程度察せられるものの、それに留まらない不気味さを漂わせる結末は強く印象に残る物語であります。


『公方様の一ノ太刀』
 おそらくは歴代将軍の中では最強の個人武力を持っていた「将軍足利義輝、御所で闘死するまでの24時間」を描く本作。最強でありながら闘死というのは皮肉ですが、本作はそこに義輝の抱えた屈託を浮き彫りにします。

 幼い頃から幾度となく京を逃れ、京に戻る暮らしを送ってきた義輝。三好・松永の軍勢が京を占拠した中、今回も京を逃れようとする義輝ですが、運命の悪戯から、彼は死に引き寄せられていくことになります。
 そして松永軍の包囲網が御所に迫る中、歴代の足利将軍が佩いた13本の太刀とともに、塚原卜伝直伝の鹿島新当流を存分に振るう彼の前に現れたのは……

 曲者揃いの本書の中では比較的ストレートな内容である本作。しかしクライマックスで義輝が繰り広げる大殺陣の迫力はまさしく剣豪小説。そしてその果てに待ち受ける、剣士の宿命もまた――
 作者による剣豪小説を読んでみたいという気持ちにさせられる一編です。


『さいごの一日』
 「そして、乱世の終幕、徳川家康最期の24時間」を描くラストの物語。なるほど、戦国乱世を統一し、戦国最後の戦いである大坂の陣の翌年に没した家康の最期は、戦国の最後と呼んでもよいでしょう。
 しかしこれまでの五人の劇的な最期(言い換えれば非業の死)に比べれば大往生を遂げた家康。それを如何に描くかと思えば――

 あえて詳しくは述べませんが、ここで描かれるのは彼の最期だけではなく、そこに至るまでの彼の生涯全てというべきもの。
 人は最期の刻に、走馬灯のようにこれまでの人生を振り返るといいますが、ついには豊臣家を滅ぼした彼の執念の淵源が、ここで思いもよらぬ形で描かれるのです。

 家康の最期を描く物語にして、戦国を終わらせた男・家康伝ともいうべき物語。本書を締めくくるに相応しい内容と言えるでしょう。(しかし、ここで冒頭の物語を思い出せば……!)


 以上六編、まさに作者ならではの奇想と、人の世の無惨さ――しかしそれを生み出したのが、人間性(の決して負のそれとは言えない部分)が生んだものなのが、さらにきつい――を描いた名編揃いであります。
 しかしそこで描かれる六つの最期の姿は、いずれも正史を忠実になぞり、歴史の結末を変えるものではありません。

 そう、歴史小説というものが、決して変えられない史実を据えた上で、そこに物語としての肉付けを行っていくものであるとすれば、本書はこの上なくその基本に忠実でありながらも、同時にそれを逆手にとって新たな物語を生み出してみせた作品なのです。

 本書はその点において非常に挑戦的な作品であると言うほかありません。そしてもちろん、類まれな傑作であるとも――


『戦国24時 さいごの刻』(木下昌輝 光文社) Amazon
戦国24時 さいごの刻(とき)

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