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2016.10.19

木下昌輝『戦国24時 さいごの刻』(その一) 肉親の愛が招く死と滅び

 木下昌輝待望の新作は、何やらコミカルな印象すら受けるタイトルの一冊。しかし内容は独創性の塊――豊臣秀頼、伊達輝宗、今川義元、山本勘助、足利義輝、徳川家康と、戦国に生きた六人がその最期を迎えるまでの24時間を描いた短編集であります。ここでは一話毎その内容に触れていきましょう。

『お拾い様』
 巻頭に収められたのは「大坂夏の陣で、豊臣秀頼が死ぬまでの24時間」の物語。お拾い様とは秀頼の幼名――生まれた子供を一度捨てた形にし、拾ったことにすれば健康に育つという俗信によったものであります。

 既に天下の大半を押さえた徳川方に対し、それに引けを取らぬ綺羅星の如き武将豪傑たちが集った大坂の陣。しかしながら結果としては豊臣家が完全に滅亡することとなった一因は秀頼の母・淀殿にある……とは、これまでしばしば語られてきたところであります。

 被我の勢力差を理解せず徳川の挑発に乗った。冬の陣ではあっさりと講和に応じ結果として大坂城を丸裸にした。そして何よりも、秀頼に過保護に接するあまり彼の出陣に反対し、全体の士気を上げられなかった……
 本作においてもこれらの淀殿の行動は変わることがありません。いつまでも自分を子供扱いする母に倦み、呆れながらも、しかしその過去を慮り、秀頼はただ母の言うがままの行動を取り、そしてそれが豊臣家の、秀頼の命脈を縮めていくことになるのです。

 この辺りの描写は丹念ではあるものの、あまりにも定番に寄り過ぎているのでは……というこちらの印象は、しかし終盤で見事に覆されることとなります。
 果たしてそこで秀頼が見たものは……それはここでは書けませんが、彼を拾う役を務め、そして大坂城にまで付き添ったという武士の存在を巧みに生かしたその結末には、もう愕然とするほかありません。冒頭から、一番の問題作であります。


『子よ、剽悍なれ』
 第二話は、戦国史でも屈指の悲劇と言うべき、「伊達政宗が父、輝宗を射殺するまでの24時間」の物語。
 複雑に勢力が入り組んだ奥州の情勢を巧みに乗り切り、実母に疎まれた政宗を支え、導いた輝宗。その輝宗が、一度は伊達に屈した畠山義継に拉致され、追った政宗の命による射撃で義継もろとも命を落とした……

 この辺り、実際の死の状況には諸説あるようですが、父が子に願い、子が涙を呑んで射撃を命じるというのは実に泣かせる話で、これが最も人口に膾炙しているといえるでしょう。本作も、この説が取られているのですが――しかし、『宇喜多の捨て嫁』の作者が、甘いだけの話を描くわけがありません。
 本作に登場するのは、自分が伊達家の実権を握り、奥州制覇に乗り出すのに邪魔である父を、義継の手を装って暗殺せんとする政宗。その策は義継を動かし、まずは彼の計算通りに進んでいくのですが……

 誰もがよく知る政宗の隻眼。そのために特注された銃で、自ら輝宗を撃たんとした政宗が知った父の姿。それは決して巷説に言うお人好しでも旧態依然とした人物ではなく――しかしそれゆえに彼は死ななければならなかった、という結末が胸に突き刺さります。異形の親子愛の物語と言うべきでしょうか。


『桶狭間の幽霊』
 題名から予想できるように「桶狭間にて、今川義元討ち死にまでの24時間」を描く本作に登場するのは、なんとこれも題名通りの幽霊。その幽霊とは義元の兄――玄広恵探と言えば、なるほどと思う方もいるでしょう。

 元々は今川家の継嗣ではなく、仏門に入れられた義元。しかし兄たちの死により今川家を継ぐこととなった義元は、同様に僧となっておりそして対立する派閥に担がれた玄広恵探を討った過去がありました。
 その玄広恵探の幽霊が、上洛(尾張攻め)を控えた義元の夢寐に現れ、この行動が義元の死を、今川家の滅亡をもたらすと止めたものの義元は取り合わず、そのために桶狭間で最期を遂げた……というのは比較的知られた巷説であります。

 本作もそれを敷衍した内容でありますが、基本的に玄広恵探の目線で描かれているのが面白い。彼にとっては仇ではあるものの、生家の現当主である義元。そして何よりも、共に仏門に入れられる日のある思い出が、彼を義元のために動かすのですが……
 しかしその想いが義元を縛るという皮肉。前二話に続きここでも肉親の愛が思わぬ結果を招き、死と滅びを招くという哀しい地獄絵図が描かれるのであります。


 長くなりますので残り三編は、次回に取り上げます。


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戦国24時 さいごの刻(とき)

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