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2016.10.02

ちさかあや『豊饒のヒダルガミ』第3巻 「罪」を背負い歩き続けた果てに

 天保の飢饉を背景に、生きながらヒダルガミと化し、餓鬼を喰らって生を繋ぐ盲目の男・トゼの旅路を描く物語も、この巻にて完結。これまで明かされていなかったトゼ自身の過去と目的が明かされた末に、彼が、彼とともに旅する者たちが辿り着いたのは……

 およそ七年間もの長きに渡り、数多くの餓死者を出した近世三大飢饉の一つである天保の飢饉の最中、各地を旅するトゼ。ヒダルガミ――人に取り憑き、飢餓感と疲労感で取り殺してしまう憑神と呼ばれる彼は、普通の食い物を喰らうことが出来ず、ただ飢え死にした者の死霊・餓鬼を喰らい、そしてそれによってその地に豊穣をもたらす存在であります。

 しかしトゼは彼岸の亡者ではなく此岸の人間、それであるのに何故彼が生きながらにしてこのような身の上と成りはてたのか……この最終巻では、ついに彼自身の過去が語られることとなります。

 盲目の身を、仲の良い兄に支えられて辛うじて生きてきたトゼ。しかし飢饉で彼らだけではなく村全体に食うものがなくなり、絶え間ない飢餓感に苛まれる中、彼らはあるものを喰らって生を繋ぐことになります。
 しかしそれすらも尽き、自らの命も残り少ないことを悟った兄は、トゼに語ります。自分が亡くなった時には……


 ここで語られるトゼの過去自体は、前の巻の描写である程度予想することができました。しかしここで描かれるのはその先――その過去を背負った彼が、何故ヒダルガミとなってしまったか、であります。
 なるほど、説明されてみれば、それは伝奇ものなどではお馴染みの理論(?)ではありますが、しかしそれをここで当てはめるのか……と、絶句するほかありません。

 しかし物語はさらにその先を描き出します。すなわち、何故トゼは旅をしているのか。トゼは何を求めているのか……と。
 そしてトゼの同行者として、好むと好まざるとに関わらず、彼の旅の道連れとなってきたゼンとミキ。亡者を彼岸に送る道を見出す力を持つゼンと、亡者を察知する力を持つミキ――この二人の本当の、意外な役割もまた、トゼの旅の終わりで明かされることになります。


 飢饉の末に同じ人間を……という、かつて確実に起きたであろう、しかし直接描くにはタブーとしか言うほかないそれを、真っ正面から描くこととなったこの最終巻。
 これまで以上に暗く生々しい、そして目を背けたくなるほど惨たらしい画も相まって、トゼの犯したその「罪」の重さは、さながら体にまとわりつく餓鬼の如く、こちらの心身にもずっしりとのしかかります。

 しかしここで描かれるもの、そしてこれまでも本作で描かれてきたもの――自らが生き延びるために他者を犠牲にすることが許されるのか、そうまでしてこの世に生きる価値は、意味はあるのかという問いかけの答えを見出すためには、その重みを真っ正面から受け止めなくてはならないのでしょう。

 そしてその答え……その答えの一つが、物語の結末において示されることとなります。
 もちろんそれは、100%すっきりと割り切れるものではありません。そしてその答えが、トゼの、登場人物一人一人の重みを完全に取り除いてくれるものでもありません。

 しかしそれでも生きていれば、たとえそれが呪われた生であったとしても、歩き続けた先に初めて見えるものがある、生まれるものがある――本作の結末は、その存在を高らかに謳い上げます。
 そしてその道のりが、人に新たな希望を与えることも……


 ギリギリの題材から逃げることなく描ききった上で、その先の希望を描く。本作でこれほど美しい結末を見ることができるとは……と、驚かされるとともに、大いに感動させられた次第です。


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