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2016.10.11

下元ちえ『焔色のまんだら』完結編 そして彼の歩み続けた道の先に

 長谷川等伯の生涯を描く『焔色のまんだら』の完結編が、「コミック乱11月号増刊 剣客商売」に掲載されました。連載誌である「戦国武将列伝」が先日休刊したものが、ラスト2話一挙掲載でここに完結することとなり、ファンとしては嬉しい限りです。

 安土桃山時代から江戸時代初頭にかけて、数々の障壁画、水墨画を遺し、この時代の絵師の代表格として知られる等伯。しかし本作における等伯は、決してその画業は順風満帆ではなく、悩み多き人物として描かれてきました。
 ライバルであり仰ぎ見る対象であった狩野永徳との確執、恩人であり美を探求する盟友であった千利休の切腹……数々の出来事を乗り越え、それでもなお、己の求める絵を描くべく奮闘する等伯は、しかし今回、あまりに大きな悲しみを経験することになるのです。


 今回収録されたうちの一話目、第五話で描かれるのは、祥雲寺金碧障壁画に挑む等伯父子の物語であります。

 己の画業を貫くため、利休の仇である秀吉の依頼に応える等伯。その依頼とは、幼くして亡くなった愛児・鶴松の追善のために建立した、祥雲寺を飾る障壁画の製作でした。
 一門を挙げてこの障壁画に挑む等伯と門人たちですが、しかしその中で、桜の間を任された等伯の長男・久蔵は、己の技量と求める画業、そして大きすぎる父の存在の間で苦しむことになります。

 等伯の名は、現代に至るまでその名を広く知られておりますが、しかし残念ながら、この久蔵の名を知る者は少ないと言うべきでしょう。
 しかし久蔵も決して凡庸な絵師ではなく、それどころか「画の清雅さは父に勝り、長谷川派の中で及ぶ者なし」とまで謳われた人物であります。

 そんな彼が絵にまつわる理想と現実の中で迷い、葛藤する姿は、ある意味父写し。そしてその父もまた、己の思うがままに生きてきただけに、息子とどのように接するべきか悩み――と、父子の葛藤の姿が、この第五話では描かれることになります。
 そしてその果てに、父と子がそれぞれに描き上げた障壁画を通じて描き出されるものは……

 本作における最大の魅力――それは、等伯の名画を作中に引用し、そしてその描かれた風景風物を、等伯をはじめとする登場人物たちが訪れ、触れ、感じる様を描く点であると、私は一貫して感じてきました。
 そしてそれは今回においても変わることはありません。

 祥雲寺の障壁画として等伯が描いた「楓図」と久蔵が描いた「桜図」、そのそれぞれの美が、二人の真情と重なり合う時、そこに生まれるのは、競い合う絵師二人ではなく、互いに敬愛し大切に想い合う父と子の姿であり、そこに強く感動があるのです。


 しかし――それに続く最終話において、等伯は無明の闇に突き落とされることとなります。

 ライバルを、盟友を、そして……を失った等伯。彼は、己の絵師としての来し方を振り返り、そして己が押し通してきた絵師としてのエゴが犠牲としたものに絶望の淵に沈むことになるのですが――
 一度は己の作品を、己自身を焔の中に捨てようとした等伯。その彼が極限状態の中で掴んだものは何であったか。そこで再び我々は、等伯の傑作を、その画の中に立つ等伯自身の姿を見ることになるのであります。

 この最終話において、等伯は50代半ば。いささかネタばらしめいた話となりますが、彼が70数歳まで生きたことを思えば、彼の人生も画業も、まだまだ道半ばであります。

 その時点で本作が最終回を迎えるのは、これはどこまでが当初の予定通りであったかは想像するほかありません。しかしこの最終話に描かれたものを見れば、この時点で物語を閉じることにも、大きな意味があると感じられます。

 悩み苦しみながらも己の道を切り開き、貫き続けてきた等伯。彼はこの先もその道を歩み続けたのであり――そしてその彼の道は、彼が彼である限りどこまでも、現代に至るまでも続いたのだと、本作は我々に教えてくれるのですから。


『焔色のまんだら』(下元ちえ 「コミック乱11月号増刊 剣客商売」所収) Amazon
剣客商売 春の嵐 2016年11月号 [雑誌] (コミック乱 増刊)


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