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2016.10.28

荒山徹『大東亜忍法帖』上巻(その一) 大作家の大名作に挑むパロディ?

 五稜郭陥落も目前の中、伊庭軍兵衛の臨終に立ち会った榎本武揚は、ただ一人奇怪な陰陽師の出現を目撃する。時は流れ、出獄した榎本の前に、死んだはずの千葉周作が出現、彼は明治政府転覆を目論む陰陽師・山田一風斎の秘術・擬界転送により、他の11人の剣士とともに復活したと語るのだが――

 これまで数々の野心的な作品を送り出してきたクトゥルー・ミュトス・ファイルズですが、その中でも本作は屈指の作品でしょう。何しろ、時代伝奇小説の雄・荒山徹が、あの大作家のあの大名作をモチーフに、幕末・明治を舞台に展開する一大活劇なのですから……

 五稜郭に依った函館共和国の総裁・榎本武揚が、相次いで目撃した怪事。右利きのはずの土方歳三が左手の剣で刺客を撃退し、かつて喪われたはずの伊庭軍兵衛の左手が臨終の際には復活しており、その代わりに右手が欠けていたのであります。
 さらに軍兵衛の臨終の際、あたかも時間が止まったかのように周囲の人間たちが動きを止める中、忽然と現れた謎の陰陽師が「――これで11人」と呟くのを、榎本は聴くことになります。

 あたかも五稜郭陥落の混乱の中で見た幻のような出来事ですが、しかし極めつけの怪事を、降伏後収監されていた牢獄から出た武揚を待ち受けます。かつて交流を持ち、しかし15年前にこの世を去ったはずの千葉周作が、生前そのままの姿で現れたのであります!
 彼を甦らせたのは、謎の陰陽師・山田一風斎だと語る周作。明治政府の転覆……いや、明治天皇の暗殺を狙い、彼のほか、実に11人の大剣士を甦らせたという一風斎の企てに協力するよう求められる武揚ですが――


 人並み外れた技量と体力を持ち、そして死の直前になって自分の生に悔いを残し強烈に生を求める者を、新たな肉体で復活させ、生前の望みを遂げるためにその剣を振るわさしめる――この秘術を知らない伝奇時代劇ファンはいないでしょう。
 その名は忍法魔界転生、言うまでもなくこれまで幾度も映像化・漫画化され、いまもされている山田風太郎の大名作『魔界転生』に登場する秘術です。

 そう、本作はその忍法魔界転生に、真っ向からオマージュを捧げた作品であります。あちらが切支丹妖術を操る森宗意軒の魔界転生により甦った7人の大剣士なら、こちらは、陰陽師・山田一風斎の秘術・擬界転送(まがいてんそう)によって甦った12人の大剣士――
 いやはや、『柳生大作戦』『竹島御免状』など、これまでもその作品の随所で山田風太郎への愛をアピールしてきた作者ですが、ついに本作においては、隠すところなくそれを露わにしてきた……そんな印象があります。

 正直に申しあげれば、この点にはファンとして複雑な気持ちがあります。いかに伝奇小説はパロディの文学とはいえ、パロディやオマージュにありきのような作品を、荒山徹ほどの作者が書くのは惜しい、勿体ない。オリジナルで勝負して欲しい……と。
 特に「原典」の文章を、幾度となく引用しているのは、何とも曰く言い難い印象があります。

 しかし……
 いささか長くなりますので、次回に続きます。


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大東亜忍法帖 上 (クトゥルー・ミュトス・ファイルズ)

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