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2016.10.26

岡田秀文『月輪先生の犯罪捜査学教室』 名探偵と学生たちの推理合戦

 毎回、ユニークな舞台設定と、あっと驚くトリックの数々でこちらを驚かせてくれる「名探偵月輪」シリーズ。その第4弾は、何やら奇妙なタイトルですが……今回はなんとスピンオフ。三人の学生相手に犯罪捜査学を教えることとなった月輪龍太郎と生徒たちの活躍を描く短編集であります。

 いかなる縁によるものか、東京帝大で犯罪捜査学の講座を持つこととなった月輪。しかし勇躍初回の授業に向かってみれば、待っていた学生はごくわずか――真面目で気弱な原口孝介、裁判官を目指す几帳面な肥崎春彦、政治家志望で傲岸不遜な松坂栄次郎の三人のみでありました。

 それでも気を取り直して講義を始める月輪ですが、彼の講義は超実践主義。実際に起きた未解決事件を題材に、その捜査と謎解きを講義しようというのであります。
 かくて三人の学生は、月輪とともに、思わぬ推理合戦を演じることに――


 と、これまでは月輪とワトスン役の親友・杉山を主人公とした長編で展開してきた本シリーズですが、今回はがらりと趣を変えた展開。杉山は今回お休みで月輪の助手の氷川蘭子女史が彼を支えることになるものの、物語の中心となるのは、三人の学生であります。
(ちなみに氷川、というところでオヤ? となるのですが、本作はシリーズ第2作と第3作の間に位置するということで納得)

 それぞれ、真面目に犯罪捜査学を学ぼうという者、探偵には興味がないが月輪の伊藤博文のツテ目当ての者、そもそも講義を間違えてそのまま引っ張り込まれた者(!)と受講動機も様々の三人。
 それでも月輪の講義で実際の怪事件に遭遇してみれば、若者らしい好奇心と互いへのライバル意識からそれぞれの推理を戦わせることとなり、それが出揃ったところで月輪がおもむろに正解を……というのが、基本的なパターンであります。

 そんな彼らが挑むのは四つの短編。
 六階建ての塔から消え去り、離れた場所で死体となって発見された実業家の謎を追う『月輪先生と高楼閣の失踪』
 原口が絵を学ぶ西洋画家の周囲に不審な人物が出没、さらに画家の息子が何者かに誘拐される『月輪先生と『湖畔の女』事件』
 大磯を訪れた三人が、かつて異国の少女の亡霊が現れたという洋館で男の死体を発見、月輪不在の中で謎を解くべく奔走する『月輪先生と異人館の怪談』
 三国干渉で国内が揺れる中、伊藤博文の護衛を依頼された月輪と学生たちが、完全な密室の舞踏会で起きた怪事件に挑む『月輪先生と舞踏会の密室』

 いずれも到底実行不可能と思われる状況で起きた難事件という点では、これまでのシリーズと同様ですが(さすがにそのスケールは抑え気味なのはさておき)、やはり探偵役が月輪プラス三人いるのが、何とも賑やかかつミステリ的にも楽しいところでしょう。

 素人探偵が見当違いな推理をした後に、名探偵がその誤りを正し、鮮やかに真相を暴く……というのは、ある意味探偵ものの定石ではあります。
 しかし講義という形を取ることで、その素人推理に一種の必然性を与え、同時に情報を整理することで真の謎解きにスムーズに導入していくスタイルとなっているのは見事というべきでしょう。

 これまでの深刻な事件ではどこか浮きがちだった、月輪の飄々として人を食ったようなキャラクターも、本作のような内容にはよく合っていると感じます。

 もちろんミステリである以上、そのトリックと謎解きが最大の眼目であるわけですが、その点ももちろん問題なし。失踪・誘拐・殺人・狙撃と一話毎にバラエティに富んだ事件は、本作のようなある意味「読者への挑戦」的スタイルによく似合います。
(もっとも、時折、解決の際に月輪以外知らないような情報が出てくることがあるのは残念なところです……)

 それに加え、全く異なる個性で、反目すらしていた三人の青年が、事件捜査の過程で少しずつ距離を縮めていく様が(決してストレートではないものの)描かれていく、青春ものとしての味わいもいい。
 特に『異人館の怪談』は、そんな彼らの微笑ましい冒険が一転、あまりに悲しい真実に直面させられるという、ある意味本シリーズらしい苦みの存在が、強く印象に残ります。


 もちろん、三人の青年の探偵修行はまだ始まったばかり。まだまだいくらでも続けられる設定でありますし、ラストで軽く触れられたその後の物語も大いに興味をそそるところ。月輪自身の活躍もさることながら、またこの三人のスピンオフも読んでみたい……そう思わされる快作です。


『月輪先生の犯罪捜査学教室』(岡田秀文 光文社) Amazon
月輪(がちりん)先生の犯罪捜査学教室


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