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2016.10.12

芝村凉也『素浪人半四郎百鬼夜行 八 終焉の百鬼行』 そして苦闘の旅路の果てに待つもの

 その意外かつ独創的な内容と完成度の高さでこれまで我々を魅了してきた『素浪人半四郎百鬼夜行』シリーズもいよいよクライマックスであります。通算第8巻を迎えた本作で描かれるのは、浅間山を舞台に善魔入り乱れて繰り広げられる最終決戦。その最中、強敵に追い詰められた半四郎の運命は……

 政敵・田沼意次を追い落とすため、配下の妖忍・服部半蔵に命じ、様々な策謀を巡らせてきた松平定信。その両者の争いに巻き込まれて江戸から姿を消した聊異斎や捨吉を追い、半四郎は浅間山に向かうことになります。
 しかしその浅間山には奇怪な童形の山鬼が出没、その討伐を名目に周辺諸藩からの人間も加えた田沼家の手勢が聊異斎たちを追い詰めます。さらにその陰では半蔵配下の怪忍者たちが謎めいた動きを見せ、浅間山は一触即発の戦場と化すのでした。

 そんな中、田沼家に雇われた怪剣士・涸沼源二郎と対峙することとなった半四郎は、死闘の末に源二郎を破った……と思いきや、そこで源二郎の恐るべき能力が発動。半四郎は剣士として致命的な深手を負わされることとなります。
 その時、ついに浅間山が噴火して――


 というわけで、前作ラストでの絶体絶命の窮地から始まる本作。何よりもまず、反則クラスの異能を持つ源二郎に対して、半四郎がいかに立ち向かうのか――という点に興味が向かいますが、しかしそこで示された解は、もう意外どころではありません。
 確かに思い返せば伏線はあったものの、それはありなのか!? と言いたくなってしまう意表を突いた展開(正直なところ、作劇上の演出かと思っておりました……)には愕然とさせられるのですが、しかしこれはまたまだ序の口、であります。

 浅間山噴火が続く中、さらに周囲に混乱と死を振りまく山鬼。鬼一坊と自ら名乗るその妖魔は、しかし意外なことに半四郎と聊異斎のことを知り、しかも二人に怨みを持っているというではありませんか。
 そして明らかになるその正体とは――まさかと思えばその通り、いやはやこれまた驚天動地という他ない展開なのであります。

 そしてその一方で着々と進行していく半蔵(その「正体」にもまた仰天)の計画。単に田沼政権への嫌がらせ、失点作りというレベルではとどまらぬその計画の全貌が明らかになった時――本作は時代伝奇小説、それも極上のそれへとはっきり変貌を遂げたと、心から唸らされるのであります。


 本作は元々時代伝奇小説ではないか、と仰られればその通り。しかし本作においては、その物語設定故に、時代伝奇本流というよりも、その発展形の一つである妖怪時代小説という印象が強かったのも事実であります。(その両者を区別することにどれだけ意味があるかは、ここでは置いておきます)
 しかし本作において描かれるものは、個人と妖怪との対決、あるいは交流・交渉といったある意味ミクロな域を遥かに超えたスケールの物語。これを時代伝奇と呼ばずして何を呼ぶ! という他ありません。

 しかし本シリーズは元々妖怪という非日常的な怪異を丹念に描くと同時に、それと同じレベルの熱意でもって江戸の市井という日常を描いてきた作品でありました。
 そして優れた時代伝奇小説を支えるのが、こうした日常――言い換えれば「現実」の姿であることを思えば、本作がかくも見事な変貌を遂げたことにも納得がいくというものです。

 いやむしろ、それはシリーズ当初から予定されていた、緻密な計算によるものかもしれませんが……


 何はともあれ、本シリーズも残すところあと1巻。本作のクライマックス、阿鼻叫喚の巷と化した浅間山では、まさに本作の、そして本シリーズのタイトル通りの存在が登場するのですが――しかし、それがもたらすものは、災いと恐怖だけではありません。

 これまでの半四郎の苦闘の旅路にどのような意味があったのか。彼がその戦いの中で為したことはなんであったか……その一端が示される結末には、彼のこれまでを見てきた我々としては、ただ涙するしかないのです。
 そしてそれを踏まえた上で半四郎を待つものは何か……それは必ずや、悲しみや苦しみだけではないと、心から信じて最終巻を待っているところであります。


『素浪人半四郎百鬼夜行 八 終焉の百鬼行』(芝村凉也 講談社文庫) Amazon
素浪人半四郎百鬼夜行(八) 終焉の百鬼行 (講談社文庫)


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