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2016.11.23

北森サイ『ホカヒビト』第1巻 少年と女薬師が行く世界、見る世界

 江戸から明治へと移り変わる時代、飢饉に苦しむ村々を背景に、不思議な目を持つ少年・エンジュと、旅の女薬師・コタカの旅を描く物語の始まりであります。

 行き倒れた母の胎内から、山姥のように暮らす老婆・オバゴによって取り出され、彼女に育てられたエンジュ。彼には、生まれつき常人には見えぬもの――いわゆるあやかしや、この世ならざる存在――を見ることができる目を持っていました。
 しかしエンジュのその力ゆえに、そして山の中で村の人々から離れて暮らすがゆえに、二人は村人たちからは忌避され、差別されてきたのであります。

 そんな中、彼らの住む地方を襲う飢饉。飢饉に苦しむあまり、それが二人のせいだと決めつけた村人たちに襲われたオバゴとエンジュは、逃れる途中、医術と武術に長けた若き薬師・コタカと出会います。
 コタカの助けを得た二人ですが、オバゴがエンジュを庇って斃れ、天涯孤独となったエンジュはコタカと旅立つことに……


 と、物語の始まりから非常に重い展開の本作。人ならざる力を持つ主人公を描く時代ものは、えてしてその力ゆえに主人公は忌避の対象となるものですが、本作においては舞台が舞台だけに、そして主人公がまだ年端もいかぬ少年だけに、一層胸に刺さるものがあります。

 その一方で印象に残るのは、細やかで端正な筆致で描かれる、エンジュとコタカの旅する世界の姿であります。
 基本的に常人であるコタカと、不思議な目を持つエンジュと……同じ世界を前にしながらも、見えるものは異なる二人。その二人の目に映るものを、本作は巧みに描き出すのです。

 特に印象に残るのは、旅に出たばかりの二人が出会う「常世茸」のエピソードであります。

 人間を含めた動物に取り付いて繁殖し、胞子が爆ぜる(その時宿主は死ぬ)まで、宿主に常世の夢を見せるという常世茸。
 文章にすればおぞましく、おそろしいのですが、絵で描かれたそれは、不気味でありつつも、どこか蠱惑的に感じられるのであり(ちょっと白川まり奈の絵を連想)、そして何よりも、不思議な存在感を感じさせるのです。

 そしてまた、クライマックスにおいて常世茸の世界に捉えられてしまったエンジュを救うためにコタカが向かった世界で出会ったある人物の存在と、そしてエンジュの目に映った(コタカの目とは異なって見える)その人物の姿が、実にいいのです。


 とはいえ、やはり基本的な物語はどうにも暗い……というより悲惨なのは、仕方ないとはいえ、どうにもやりきれないものが残ります。
 この舞台、この設定であれば当然というべきなのかもしれませんが、当然のものをいくら見せられても……と、そのやりきれなさを抜きにしても感じてしまうというのも正直なところであります。

 もっとも、本作の物語は、エンジュとコタカの旅は始まったばかりであります。二人の旅がどこに向かうのか……そして二人がそこで何を見るのか(そして二人の見るものが重なるのか)。
 その点は、もちろん気になるところです。

 「ホカヒビト」の「ホカヒ(ホカイ)」とは、神を、人々を祝福することの意であり、すなわち「ホカヒビト」は「祝福して歩く者」を意味します(獅子舞や万歳など同様、一種の祝福芸能者とも)。
 果たして二人がホカヒビトなのか、だとすれば彼らが祝福する相手は誰か、そして彼ら自身に祝福は与えられるのか……それを見届けたいと思います。


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ホカヒビト(1) (モーニング KC)

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